約 2,287,760 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5824.html
…… 「な…とさ………だいじょ……で…すか……-ッ!!?」 隣で誰かの声がする。何を言ってるのかよく聞こえない。 「なが……さ…しっか……て……さいッ!?…がとさんッ!?」 時間の経過につれ、しだいに耳が慣れてくる。 「長門さん!!?しっかりしてください!?長門さん!!」 …… なるほど、ようやく言ってることがわかった。 長門…、ここまで人が心配してくれてんだ。返事くらいしてやれよ…。その人に失礼だろう? …… …? って、何なんだこの状況は…? ? 違和感に気付いたときには、すでに俺は目を覚ましていた。 「!?キョン君!!?意識を取り戻されたのですね!?」 「キョン君……!!本当に…よかった……!!長門さん……ありがとう…!!」 涙をこぼす古泉と朝比奈さんがそこにいた。 …… ここはどこだ?…見覚えのある街路地だ。俺のこの体勢は何だ?…どうして地べたに寝ている? 「古泉…朝比奈さん……、俺は…一体…?」 ふと、横で倒れている人物を見つける。 …長門…?? 「長門!?」 ッ!? どうして…こんな状況になってしまってるんだ??俺が目を覚ますまでの間に… 一体何が起こったってんだ?? いや…そもそも…、なぜ俺はこんな場所で倒れていた??俺に何があった…?? ?? …… 落ち着いて…頭の中を整理してみるとする。 …ッ 背筋に寒気が走る そうだ 俺はついさっきここで 刺 さ れ た ん だ 鋭利な刃物で …… 誰が? 一体誰がそんなことを…? …… 微かに記憶に残っている。血まみれに伏した俺を 酷く冷たい形相で嘲け笑う 生き物の姿を。 あんな奴、俺はこれまで会ったこともないし見たこともない。 …何言ってんだ俺は?知りたいのは犯人の様相ではなく、そいつが誰かってことだろうが!? ダメだ。思い出せない。 …いや 思い出せないのではなく 思い出したくないだけではないか? …… わからないなら、わからないままでいい。 「長門は…!!長門はどうして倒れてんだ!!?」 次に呈する疑問と言えばこれだろう…長門に…長門に何があった? 「……」 辺りを見渡すが…特に誰かいる気配はない。 「キョン君!安心してください!例の御三方はもうこの場にはいませんよ。」 「…そうか。そりゃ良かった…。」 俺の記憶が正しければ…先ほどまで長門・古泉は藤原、橘、周防の三人を相手取り 奮戦していたはずだ。それも重傷の朝比奈さんを介抱した状態で…。 「長門は藤原たちとの闘いで大けがをした…だから、今こうして長門は倒れてるんだろう!? 今ヤツらがいないのはお前らが撃退してくれたおかげか!?」 「いえ、長門さんが倒れた直接の原因は… 彼らの攻撃によるものではありません。多少のダメージはあるにしてもね。」 「実は…藤原君たち、途中でいなくなっちゃったんです…。」 「いなくなった??それはどういうことですか??」 「なぜ彼らが去ったのかはわかりません…ただ、去る間際に藤原君が 『時間切れか…!』みたいなことをイライラした様子で呟いていたのは覚えてます…。」 時間切れ??意味がわからない。 「要するに、ヤツらは逃げたってことか…。」 「その表現は不適切かと。あのときの我々の不利はどこからどう見ても明白… ゆえに、あのまま戦闘を続行していれば間違いなく我々は全滅していました。」 全滅… リアルな表現に背筋が凍る。 「そのおかげで我々は今生きているようなものですからね。…まったく、運がいいものです。」 「私も…あのときはホントに死ぬかと思いました…。」 …そういえば あのとき彼女はハルヒを庇い、重傷を負ったではないか。全身を血で濡らせた彼女の様は痛々しくて……、 とても直視できるようなものではなかった。その彼女が…朝比奈さんが今…! 急に目頭が熱くなる。 「朝比奈さん…!ご無事で…本当に何よりです…!!」 切実にそう思った。 「キョン君…心配してくれてありがとう!もう大丈夫よ!これも全部闘ってくれた古泉君と… そして、ケガを必死に治してくれた長門さんのおかげ…。でも…長門さんが…!」 …… 「…これはどういうことなんだ古泉…?藤原たちのせいじゃないのなら、どうして長門は今ここで倒れてるんだ!?」 「彼女は…おそらく、力を使い果たしてしまわれたのだと…思います。それによる疲労ではないかと…。」 「??何だと?」 俺は違和感を覚えずにはいられなかった。 以前…俺は朝倉涼子に殺されかかったことがある。あのとき長門は…情報改変や崩壊因子などといった あらゆる手段を用い、結果として朝倉を葬った。再生と称し、貫通攻撃による腹部への大ケガも治癒した。 やり方さえ違うが、今回だってそうだ。朝比奈さんへの介抱を自身の再生、その後の藤原たちへの対応を 朝倉のそれと置き換えれば、状況に関しては酷似してる…と言っても過言ではないはず。 しかし、だからといって長門は朝倉を倒したのち意識を失って倒れたりはしてない。 だからおかしいのだ。なぜ今回に限って倒れる? …わかっている。確かに、一概に比較もできないだろう。今回は敵が3人だった上、 古泉や長門の言うとおりならば、天蓋領域である周防九曜の実力は朝倉のそれとは桁違いだったはずである。 前回と比べ、長門にとってはいかに苦しい闘いだったか…それはわかっている。 だが…かといって、意識を失うというのは、さすがに行き過ぎではないか? 「古泉…。長門は…、何に対して力を使ったんだ?」 「…それは」 「…元気そうで……何より…。」 古泉の言葉は遮られた。聞き覚えのある微かな小声によって。 「長門!!?」 「長門さん!?目を覚ましたんですか!?」 「良かった…!一時はどうなるかと思ったんですよ…。」 「…命に別状はない。だが、過剰な情報操作・改変の濫用により、 情報統合思念体として本来有す能力をしばらくの間凍結せざるを得ない状況。」 過剰… 「つまりお前は…それだけ無理しちまったってことなんだな…。だから倒れたのか…。」 「そう。」 …どうやら古泉の言うとおりだったらしい。 「確かに、私は自身の体に負荷をかけすぎた。だが… そうするに十分な見返りはあった。現にあなたとこうしてしゃべっていられる…。」 …?最後の言葉の意味がよくわからない。 …… そういや 俺の刺された傷は一体どうなった? …背中をさすってみたが、特にケガをしている様子はない。 そもそも、先ほどから俺は一切の痛みを感じていない。なるほど…そういうことだったか。 「長門…感謝するよ。俺のケガを治してくれたのはお前だったんだな…。」 ? 今度は自分の言った言葉に違和感を覚える。長門を失神にまで追い込んだ原因が俺の治療?? …そんなバカな。確かに、俺は死にかけていたかもしれない…ゆえに、処理は大変だったかもしれない。 だが、それは朝比奈さんとて同じだったはず。一体…何が長門をそこまで追い込んだ?? 「長門…、俺の治療は…そんなに大変だったのか?」 「私は治療などしていない。」 …え? 「ちょっと待て長門…俺はさっき刺されたんだぞ!?だが、 現に俺は無傷でいる。お前が治してくれたとしか考えられないんだが…。」 「我々が倒れているあなたを発見したとき、すでにあなたに息はなかった。」 息がなかった…? 「事実上の死亡を確認した。」 …?今、長門は何と言った?し…ぼう…?死亡…!? ははっ、まったく、相変わらず面白いこと言ってくれるぜ長門は。 「つまり、それはアレだよな?死んでると思われても仕方がない状況だったってことだよな?」 「違う。確かにあなたは今日の22時23分に死亡している。 心停止、自発呼吸停止、瞳孔散大…。一般的に有機生命体、即ち人間の死の概念とされる 心循環・肺呼吸・脳中枢機能の不可逆的停止…その全てをあなたは満たしていた。」 …信じられない 刺された覚えはある。だが、死んだ覚えはないぞ…!? 現に…俺は今生きている。死んだとか過去形で言われても…どう反応すりゃいいんだ…?? …だが。長門が言ってるんだ…これは事実なんだろう…? つまり 長門がいなければ 今の俺はいない …… 現実を受け入れたその瞬間からだったろうか。 俺は…長門に礼を言わずにはいられなかった。彼女を踏み倒す勢いだったと言っていい。 「ありがとう長門…、俺を…俺を、生き返らせてくれてよ…。」 「私は仲間として当然のことをしたまで。感謝されるような言われはどこにもない。」 「いや…言わせてくれ。本当に…本当にありがとう…長門…!」 「…そう。」 人の生死を覆すというあってはならないことをしようとした長門。 その禁忌を犯すため規格外の情報操作・改変に力を尽くした長門。 挙句の果てに意識を失うまでに心身を酷使させ続けた長門。 …… 『お前の無理するとこは誰も見たくねーんだ!!ここにはいないがハルヒもな。だから…長門、俺に約束してくれ。 二度とこんな真似はしないってな。もしやるようなら…罰金だからな?それがSOS団ってやつだ。』 昨日あんなこと言っといてこのザマか…。長門、罰金は支払わなくていいからな。 それもまた…SOS団ってやつさ。本当にありがとう…長門。 …そういえば、長門にばかり意識がいってたから気がつかなかったが…。目覚めたとき 古泉や朝比奈さんも泣いてたんだっけか…。そりゃそうか。俺が古泉たちの立場でも間違いなく号泣してる。 …当たり前だろう?仲間が死んだんだぞ?…平然としていられるわけがない。 前にも言った記憶があるが…もう一度言わせてもらおう。つくづく良き仲間に恵まれたと思う…俺は。 さて もう、そろそろ自分のことはいいんじゃないか…?俺には…やるべきことがある。 「ところでな長門…ハルヒが今どこにいるかはわかるか!?」 …起きたときからハルヒの存在が無いのには気付いていた。 自分や長門の現状把握で一杯一杯だった俺は、ハルヒのことを気にかける余裕すらなかったが… だが、今ならそれができる。消えたハルヒを…なんとしてでも探しだして、そして守ってやらなくちゃならない!! 「…わからない。」 しかし長門の返答はあっけなく、そして絶望的なものだった。 「わ、わからない…!?どういうことなんだ長門…??」 「長門さんは…先程も申した通り、一切の能力が使用できない状態にあるんです。ですから今は…」 そうだった。『情報統合思念体として本来有す能力をしばらくの間凍結せざるを得ない状況』 って、さっき長門が言ってたばかりじゃねえか…しかも、その原因は俺ときている。 古泉に言われ、改めて気付かされる自分自身が情けない。 「ただ、全く見当がつかないというわけでもない。」 「っ!何か心当たりでもあるのか!?」 わずかだが、希望の光が射す。 「路上で伏しているあなたを見つけるまで、私は涼宮ハルヒの現在位置の特定にあたっていた。」 …… 「最後に私がその観測を行ったのは22時35分。座標軸に照らし合わせて位置を算出した結果、 彼女はその時点において学校の校庭付近にいたことが確認されている。」 「学校って…俺たちが通ってる北高のことだよな?」 「そう。ただし、現在時刻は22時49分。最後の観測からおよそ14分もの時間が経過していることから、 現在も彼女がそこにいるかどうかはわからない。学校敷地内にいるという保障もない。」 「ありがとう長門…それさえわかりゃ十分だ。」 おそらく、今もハルヒは学校にいるだろう…。根拠はない。単なる勘でしかないが…俺はそう感じる。 …… …? 俺は疲れてるのか?古泉、長門、朝比奈さんの姿がぼやけて見える。 …気付けば視界に色彩が見えない。周りがモノクロの空間へと化してしまってる。 「おや…、どうやら時間のようですね。」 「…古泉?時間って、どういうことだ??」 「この世界が閉鎖空間へと化しつつある状況を見て予期はしていましたが…いやはや、残念です…。」 「以前、涼宮ハルヒがあなたを呼んで新世界の構築を試みたあのときと全く同じ状況下にある。 基本、この空間においては涼宮ハルヒを除くあらゆる生命体は存在不可な上、侵入も不可。」 「藤原君たちが途中でいなくなっちゃったのも…もしかしてそのせいなんでしょうか?」 嫌な予感がする まさか… 「お前ら…消えちまうなんて言わねえよな!?」 「…残念ですが…。」 その古泉の一言で…俺の目の前は真っ暗になる。嘘だろ? 何もかも一人で…これから俺は立ち向かわなくちゃならねえのか!? ふと気付く 「俺は…俺はどうなるんだ??俺も消えるのか??」 「いえ、あなたは我々と違って消滅することはありません。なぜならあなたは…」 「…異世界人だから。よって、涼宮ハルヒの影響下に置かれることもない。」 …そうだったな。そういや俺、異世界人だったな…自覚は全くねえが…。 「俺は…、お前らの協力無しに世界を救うことはできるのか…??」 「…キョン君にならできますよ!長門さんがさっき言ってたように、以前涼宮さんに呼ばれたときだって 大丈夫だったじゃないですか!結果、キョン君と涼宮さんはこの世界に無事戻ることができたわけですし…!」 「朝比奈さん…あのときとは随分状況が違います…。今回ばかりは俺一人でどうにかなるかはわからない… それに、前回だって朝比奈さんや長門のヒントがあってこそのものでしたし…。」 「…え?私何かヒント言いましたっけ?」 「あ、いや…なんでもないですよ。」 『白雪姫って知ってます?』 朝比奈さん大の伝言。 『sleeping beauty』 長門が知らせてくれた言葉。 これら二つが掛け合わさって、初めてあの世界を脱出できたと言ってもいい。 それくらい、俺にとっては一生を…いや、俺だけの問題じゃない… 世界の行方を左右させた重要なヒントだ。 …朝比奈さん …… 朝比奈…さん…? …… フラッシュバックが起こる 『キョン君…さっき私に聞いてましたよね?自分が今成すべき事を。それはね、死ぬことよ。』 『冥土の土産に教えてあげる。藤原君たちの本当の狙いはね、私の抹殺よ。』 『まさか、涼宮ハルヒを昏睡状態に陥れた犯人が私だったなんて想像もしなかったでしょ。』 『まさか、ここまで上手く事が運ぶなんてね。アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!』 「あ…ああ…ああ…っ!!!」 陰惨な光景だった。思い出したのは残酷な事実だった。信じられない。どうしてこんなことを…ッ 朝比奈さん…!!? どうして!?? 「……っ!!」 「だ、大丈夫ですかぁキョン君!?どこか具合でも悪いの…!?」 「朝比奈さん…。」 ふと、不安定になった俺の体を支えてくれる彼女。 「すみません…ちょっと魔がさしてしまって。」 大人のあなたに脅えていましたなんて、口が裂けても言えない。 …… ああ、わかってる。悪いのは大人朝比奈さんであって、目の前の彼女じゃない。 彼女は決して悪くない。命懸けでハルヒを守ろうとしてくれた時点で…それはすでに明白だろう…!? …… 気付くと、みんなの姿はすでに半透明へと化しつつある。 「もう時間がありませんね…キョン君、あなたにこれを渡しておきましょう。」 「これは…!?」 俺は古泉から…機関銃を受け取った。 「あなたと涼宮さんを除いては、この世界には誰も残らないはず…理論上はね。 しかし、非常時ですから何が起こるかわかりません。役に立つかどうかはわかりませんが せめてもの力になってくれればと…思ってます。消えゆく僕にできるのはそれぐらいですから…。」 …機関銃ってのは、こんなにも重いもんだったのか。よくこんなもんを振り回して戦ったな…。 玉もしっかりと充填してある…、準備は万全ってか。これなら敵が現れたって 「……」 敵が現れて…俺はどうすんだ??そんなの決まってる。撃つだけだろう …… 敵って誰だ? 朝比奈…さん…? 彼 女 を 撃 つ … ? 撃たれた人間はどうなる …死? 朝比奈さんを…射殺…? 「!?」 俺は…っ 「古泉…すまん、これは俺には少し荷が重い…。」 「まあ、確かに5kgは軽くありますからね。しかし僕にだって扱えたんです、あなたでも…。」 …… 「……!」 何かハッとしたような顔をする古泉。 「…なるほど、どうやら単に重さの問題ではないようですね。 あなたがそれを躊躇うのは…あなたを刺した人物と何か関係が?」 !! 「……、ああ。」 古泉…お前の洞察力は大したもんだな。 「…、あなたを混乱させないようにと、なるべく避けていた質問ではあったのですが… 言わせてもらいましょう。その刺した人物の名を…教えてはくれませんか?」 …… どうする?ここでみんなに話すべきか?俺を刺したのは未来から来ました大人朝比奈さんですよと。 …… 言える…わけがない…!!何の罪もない…この【朝比奈さん】の前でそんなことが言えるわけ…!! 「……」 「…いや、言いたくないのなら結構ですよ。…あなたの気持ちはわかりましたから。」 「古泉…すまん。」 「??い、一体何の話をしてるんですかぁ??」 話の展開について行けず混乱する朝比奈さん。あなたは…それでいいんですよ。 「…まあ、かといって何もせず消滅…なんていうバカな真似もするつもりはありません。」 そう言って古泉は俺に手渡した…さっきとは対照的な小さな鉄の塊を。 「これは…拳銃…か??」 「ええ…見た目はね。しかし、ただの拳銃ではありません。 麻酔薬、別名不動化薬の入った注射筒を空気圧で射出する…いわゆる麻酔銃ってやつです。」 「麻酔…銃…。」 「相手を殺さず、生け獲りにするケースを想定して試案された捕獲銃です。 万一の事態を想定して常に携帯はしていましたが…まさかこれが役立つ日が来ようとは。」 「古泉…何でお前はこれを俺に?」 「麻酔銃…ですからね。人を殺すための道具ではないんですよ。そう言えば、わかりますよね?」 …こいつは俺の心中を察している。俺が朝比奈さんの殺害を躊躇ってることを察している。 考えたな古泉…。麻酔銃か… 「わかったが…この銃は本当に大丈夫なのか? 薬剤の種類や投薬量によっては…場合によっては死に陥るんじゃないのか?」 「…そこを指摘されては辛いですね。もともと麻酔銃というのは中・大型の野生動物の保護、 あるいは動物園で動物が逃げ出した場合などの捕獲用に麻酔を打つ際に利用されるものです。 そういうわけで実は…対人用の麻酔銃というのは開発段階にこそありますが、実在はしてません。 ですから、世間一般の正規ルートで手に入る麻酔銃で人間を撃ってしまえば、麻酔がかかる前に 過剰投与によるショック死、または呼吸抑制作用による窒息死を招くのは確実です…。」 「…ちょっと待て!?お前さっきこれは人殺しの道具じゃないって言ってたじゃねえか!?」 「残念ながら…通常ならばそうなんです。ですが我々機関はそれを踏まえ、密かに対人用の麻酔銃の 開発を続けてきました。あなたが今もっているその銃は、言わば非正規ルートで手に入れたようなものです。」 「…どう違うんだ?」 「普通の麻酔銃の中に充填される麻酔薬はケタミンという物質なのですが…なんせ麻薬指定にされているだけ、 動物ならともかく人間に向けて撃ってしまえば大事に至らせるのは確実です。そこで、我々はその代替薬として、 塩酸の一種であるチレタミンとゾラゼパムの混合薬を使用しています。哺乳類用の麻酔薬であることから ケタミンより安全性が高いのは確かです…それでも、決して死亡率0%というわけではありませんが… そこはどうか、お許し願いたいです。」 …古泉の機関とやらは一体どんな組織なのだろうか…?製薬会社?医療関係? いや、銃が絡んでるってことは武器製造??…考えてもバカバカしくなるだけなのでやめとこう…。 そもそも、森さんや新川さんみたいな超人がいる時点で、この機関とやらに常識が通じないのは 前々からわかっていたことだろう…? 「…古泉、わかったぜ。そりゃ仕方ねえ、世の中に絶対ってのは無いんだからな…。 俺はこれでなんとかするとしよう。ありがたく受け取っとくぞ!」 「お気に召してもらえたのなら光栄です。」 これならば…俺は朝比奈さん大を殺さず、ハルヒを救うことができるのだろうか? 「…!そうだ…私もキョン君に渡さなくちゃ…!!」 ポケットを弄繰り回す朝比奈さん。どうやら古泉の譲渡を見て、何かを思い出したらしい。 「キョン君…これを…。」 俺は朝比奈さんから受け取る。…何だこれは?何かの装置?? 「あ、え、ええっと…それ…、詳しくは私もよくわかんないんです…。」 そうですか…わかんないんですか…。俺はどういう反応をすればいいんだろうか? 「…というのも、これは…上司から未来経由で送られてきたものなんです…。 その際に、この小型装置が何なのかについての説明はありませんでした…。 ただし、用途は記されてました。キョン君、その端っこにボタンみたいのが付いてるでしょ?」 「…はい、ありますね。」 「それをね、ピンチのときに押すだけでいいの。」 「…それだけですか?」 「はい!」 「…押すと一体何が起こるんですか?」 「ごめんなさい…それはわからないです…。」 「……」 さっきまで長門や古泉による濃厚な説明を受けていただけに、そのギャップ度合が物凄い。 いや、決して朝比奈さんに非はない。ちゃんと情報を伝えなかった上司が悪いんだ。 「もともとは私に対し送られてきたものなんですけど…これから消えゆく私が持ってたって 意味ないものね。だから、せっかくだからキョン君に使ってほしかった…! さっきの古泉君とのやり取りを見てて、これを貰ったことを思い出したの!」 …つまり、あなたはその存在をずっと忘れていたというわけですね…。 「あ、もう一つだけ伝えなくちゃいけないことがあります…。さっきピンチになったら押してと言ったけど… そのピンチというのは、ただのピンチじゃダメみたいなんです…!」 「…どういうことですか?」 「だからその…何ていうか、絶体絶命と言いますか…本当に本当の意味でもうダメだ!! …みたいなときに押してください!そう紙に書いてありました!じゃなきゃ…ダメみたいなんです…! なぜダメなのかは私にもわからないんだけど…。」 腑に落ちない点が多いが…こればかりは仕方ないだろう。 「わかりましたよ朝比奈さん。ありがたく受け取っておきます。」 「説明不足でゴメンねキョン君…どうか、それが役立ってくれることを祈ってます…!」 …あなたが謝ることはないんですよ…、全てはその怠惰な上司のせいなんですから。 …… 上司? …俺は彼女の上司を知っている …ッ 罠!?まさかこれは自爆装置か!?ボタンを押せば、俺が死ぬような仕掛けになってるんじゃないか!!? …落ち着け。冷静に考えてみろ…。そもそも、これは朝比奈さんへの贈り物だったはず。 ならば、そんな危険なもんを送りつけて過去の自分を殺してしまうような自殺行為など… 常識的に考えればするはずがないだろう!?自爆装置だの何だの…少し俺は頭がおかしくなってたらしい。 とはいえ、無理もないだろう…?その上司とは、つまり大人朝比奈さんに他ならないんだからな…! …まあ、仮にも過去の自分に対して送ったんだ。非常時に押せば助かるという趣旨自体は おそらく間違ってはいないだろう。未来製であるからして、おおかたバリアーが出るとか… そんなとこだろうか?…発想が貧困な俺にはこれくらいしか思いつかない。 そんなこんなで考えをめぐらせていた俺だったが 「おや…、もう少し話したかったのですがね…。」 古泉の一言で俺は気付く。長門・古泉・朝比奈さんの姿が揺らぎ始めている。 「…キョン君、僕は信じてますよ。必ず世界を救ってくれる…とね。」 「キョン君…!!どうか…無事帰ってきてくださいね!涼宮さんと一緒に!!」 「何があっても決してあきらめないで。あなたならきっとできる。」 ちょ、ちょっと待ってくれ!もう…お別れなのか…!? 急すぎる…っ お前らが消えたら…俺は… …ッ!!一人になっちまう…!! …… 見苦しいぞ俺…だが、最後に本音をぶつけさせてくれ。 「俺一人で本当にハルヒを救えるのかよ…!!?」 「できますよ。あなたは涼宮さんに選ばれたのですから。」 「できます!キョン君は涼宮さんにとって特別な人ですから!」 「できる。あなたは…涼宮ハルヒにとって無くてはならない存在。」 口を揃えて言ったのは、それだけみんなの気持ちが一緒だった所以か。3人の最後の言葉だった。 「……」 ふと手に持ってる物を見た。古泉がくれた麻酔銃。朝比奈さんがくれた例の装置。 …俺は一人じゃない。 姿形こそないが…みんなの気持ちは、思いはちゃんとココにある。そもそも、長門の力が無ければ 俺は今、生きてすらいなかったじゃないか!?みんなの協力があって、今の自分がいる…! 「待ってろよハルヒ…っ!」 俺は学校へ向け、走りだした。 …… 「…はぁ…はぁ…は…!」 北高が…見えてきた。 「…くっ」 一旦ストップする俺。後先考えず全力疾走したせいか…心臓がおかしくなりそうだ。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!!」 息切れを起こしているのは言うまでもない。しかし、歩いてもいられない。一刻も早く、ハルヒに会う必要がある。 …明確なタイムリミットはない。もしかしたら、そんなものはないのかもしれない。 だが 俺はついさっき感じていたんだ。一人でいることが…。孤独であることが…どれほど悲しいことか。 それは、今のハルヒも決して例外ではないはず。 …… わかってる。今のハルヒはハルヒであってハルヒではない。おそらく神としての記憶が宿り、 別人格と化していることだろう。ゆえに、そんな感覚は無いのかもしれない。だからといって、 長門・古泉・朝比奈さん…そして俺の知るハルヒそのものが…抹消されてしまったわけではない! …月だ。今のハルヒは月だ。月が出ている夜に太陽は存在しえない。だが、消滅もしていない。 実際はすぐそこにあるのだ。ただ 見えなくなってしまってるだけで。 ハルヒ…! 「もう少しの間…待っててくれよな…っ!」 学校まで後わずかだった。 いや、後わずかだった…はずだった。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5823.html
角膜に映しだされている光景を、俺は夢だと思いたかった ハルヒと朝比奈さんが …… 血まみれで伏しているというのは 一体どういう冗談だ…? 気付くと俺は二人の前にいた 考えるよりも先に体が動いてしまったらしい 「大丈夫かよ!?おい!?!しっかりしろ!!!!!」 「キョ…キョン…!!みくるちゃんが…!!みくるちゃんがあ!!!!」 「しゃべるな!!お前だってケガしてんだろ!!?」 「違う…!!あたしはケガなんてしてない!!…みくるちゃんが…あたしを…あたしをかばって…!!!!」 …… え? じゃあ、ハルヒの服にべったり付いているこの血は何だ? …… 全部…朝比奈さんの血…… …!? 「う…ぅ、ぅぅ……!」 悲痛な様で喘ぐ…彼女の姿がそこにあった 「朝比奈さん!!!!しっかりしてください!!!!…朝比奈さん!!!!」 「ょ…ょかった…すず…涼宮さんがぁぶ、無事で…!」 「朝比奈さん!!?」 「わた…し…やくにた…てたかな…ぁ…ぁ…!」 理解した 彼女は秒単位という時間の中で自らハルヒの盾となった あのとき奴の一番そばにいた…彼女は 『ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?』 つい先ほどの彼女の言葉が頭でこだまする 朝比奈さん…あなたは…そこまで思い悩んでいたんですか…!? 「あ…あたしのせいだ…!!あたしがボーっとして動こうとしなかったからみくるちゃんが…!! あたしのせい…あたしのせいでみくるちゃんが…っ!!いやあああああああああああああ!!!!」 頭を抱え絶叫しだすハルヒ 「よせ!!ハル」 言いかけてやめた。ふと、気付いたからだ…俺の横へと立っている人物の存在に。 「あなたは涼宮ハルヒを連れ、ただちにこの場を立ち去るべき。周囲の急激な悪化により 彼女の精神は極限状態。これ以上の錯乱は彼女の自我そのものを崩壊させる。 神としての記憶を覚醒しかねない極めて危険な状況。」 長門… …… …!! 今の俺に長門の声は届かなかった 「長門…!!お前…!!」 気でも狂ったのか、俺は長門に掴みかかっていた。 「…銃で必死に迎撃してくれてた古泉と違って…お前は一体何をしていた!? お前なら…!!今の攻撃からみんなを守ることなど造作もなかったはずだろう!? …なぜそれをしなかった!?答えろよ長門ッ!!!!答え」 頬に鈍い痛みが走った 俺は古泉に殴られた 「てめえ…!何しやがる!?」 「あなたこそ…こんなときに何をやってるんです!?涼宮さんを連れてただちに逃げろと… 今長門さんに言われたばかりでしょう!?どうしてそれに従おうとしないんです!?」 「お前…!!!今にも死にそうな朝比奈さんは無視か!?それに長門は…!」 「おいおいおい、九曜さん。ちょっとやりすぎじゃ?死人がでそうな状況なんだが。」 「…関係のない人に重傷を負わせてしまったぶん多少の罪悪感はありますが…ま、仕方ないですね。 ある意味当然の報いですよ。なんせ、私たちは問答無用で先ほど殺られそうになったわけですから。」 「-----------身の程を-------------------------------知るべき」 炎上した隣家の方角から歩いてくる… 不快な言葉を発する三人組が… …… そして、俺はこいつらの顔を知っている 未来人藤原 超能力者橘京子 天蓋領域周防九曜 …藤原。やっぱりてめえらの仕業だったわけか…! 「…長門さんと同程度か、それ以上の力を有する周防九曜…。天蓋領域という名の化け物に 彼女は…長門さんは情報操作をかけられ、一切の身動きがとれない状態でした。」 !! 「それでも彼女は抑圧されてもなお、力を行使し被害を最小限にとどめました… 朝比奈さんを助けることが叶わなかったのは…彼女の力が不完全だったためです…。 もちろん、僕の力量不足でもありますがね…。逆に、その不完全な力さえもなければ今頃僕も、 そしてあなたもタダではいられなかったでしょう。最悪の場合死んでいたかもしれません。」 …ッ! …よくよく考えてみれば、長門や古泉が死に物狂いで頑張ってる中、俺は何をしていた?? 自分を守ることで精一杯だったじゃないか…!?いくらハルヒと朝比奈さんとに 距離があったとはいえ…、、、、そんな俺に、長門を批判できる資格なんかない…!!! 「長門…俺はお前にひどいことを…!本当に申し訳ない!この通りだ…!」 俺は長門に…誠意をもって謝罪した。 「…私が周防九曜に対し後れを取ったのは事実。だから、あなたが謝ることは何一つない。」 「しかし…!」 「私のことはどうでもいい。一刻も早く涼宮ハルヒを連れてここから立ち去るべき。」 …さっきも言われたな。頭に血が上ってたが、確かにそんな覚えがある。 …… ああ、わかってるさ。そうせねばならないほど窮した事態だってことは だが 「朝比奈さんはどうすんだ!!?重体の彼女を放置して、俺とハルヒだけ逃げろってのか!!?」 「…朝比奈みくるは、これから私が全力を尽くして治療にあたる。」 「!確かにお前にならそれが可能だな…だが、あいつらの相手はどうすんだ!? お前が治療に専念する間……、、!!まさか古泉一人に戦わせるつもりか!?無茶だ…! 相手にはあの天蓋領域だって」 「…幸か不幸か、涼宮さんの重度の乱心により…この場は閉鎖空間と化しつつあります。 となれば、僕も超能力者として…本来の力を存分に行使できるようになります。」 古泉… 「わかってんのか!?それでも1対3には変わりねーんだぞ!?」 「…涼宮さんにもしものことがあれば世界は終わりです。あなたもそれは十分承知のはず。」 「しかし…!」 「…以前ファミレスにてみんなと誓ったではありませんか。我々は協力して…みんなで涼宮さんを守る!…とね。」 …こいつは、自分の死を覚悟しているのか?仲間を守るために… …… 長門も同様にそうだろう。 朝比奈さんにしてもそうだ、命を擲ってでもハルヒを守ろうとした。 みんな覚悟を見せつけている 絶対に3人の覚悟は無駄にできない!!!!なら、俺にできることは一つ 「ハルヒ!来い!」 強引にでもハルヒの手を握り、連れて行こうとする俺。 「嫌!!放してよ!!!!放して!!!!みくるちゃんが!!!!! みくるちゃんがああああああああああああッ!!!!!!」 ハルヒもハルヒで相当つらいんだろう…気持ちはわかる。だが、今は我慢するんだ…! みんなの意志を…覚悟を…どうか酌みとってやってくれ!!! そして…みんな… どうか死なないでくれ!!!! 俺は3人に背を向け、ハルヒとともに走りだした。 「…はん、ようやくお喋りは終了か。じゃ、とっととそこをどいてもらおうか。計画に支障が出る。」 「その先にいるターゲットに私たちは用があるんで。早くしないと逃げられちゃいますしね。 それに、閉鎖空間と化したこの場で猛威を揮えるのは…決してあなただけではないってことも どうかお忘れずに。だって、私も同様に超能力者なんですから。」 「それくらい承知の上です。それでも、あなた方が何を言おうと僕はここを通しません…!」 「古泉一樹…朝比奈みくるの治癒がもう少しで終わる。 そのときまで、どうか耐えしのいでほしい。終わり次第、私も参戦させていただく。」 「それは頼もしいですね。ぜひともお願いします。」 …… 「一応忠告はしてあげたんですけど。じゃあ、仕方ありませんね。」 「結局こうなるのか。面倒なヤツらだ…。」 「---------邪魔」 「「はぁ…はぁ…はあ!」」 一体どれくらい走ったのだろうか…、俺たちはすでに息をきらしてしまっている。 行く宛てもなく…ただただ走り続けた。藤原たちから離れることだけを考え…ただただ走り続けた。 轟音爆音が鳴り響く 火の手が上がっている …俺たちが先ほどまでいた場所からだ。 …… ところで、俺にはさっきから妙な違和感がある。市街地を走りぬけていて気付いたのだが… 人一人歩いていない、というのはどういうわけだ?確かに、時刻は夜の10時をとうに過ぎてしまっている。 ゆえに、人通りが少ないのは理解できる。だが、人一人見当たらないのはどう考えたっておかしい。 …これも長門、ないしは周防九曜の情報操作に起因したものなのだろうか? それともさっき古泉が言っていたように、この世界が閉鎖空間と化しつつあるから…? っ! ふとハルヒの手が放れる。酷く塞ぎ込み、その場にしゃがみこむハルヒ。 「もう…あたし…、走れない…!」 「…そうだな…随分走ったし、ちょっと休憩するか。」 「…ねえキョン」 「何だ?」 「そもそもさ…何であたしたちこんな必死になって走ってんの…??」 「……」 「さっきまでさぁ…あたしたちお菓子とか食べながらみんなで騒いでたじゃないのよぉ…!? あれは一体何だったの!!?夢!?どうして…こんなことになってるの…!!?」 「……ハルヒ…」 「この状況は一体何よ!??家が吹き飛ぶわ、破片が飛び交うわ…そのせいでみくるちゃんが…!!」 …ハルヒの疲弊は、どうやら単なる息切れによるものだけではないらしい。 「ち、違う…!!あたし…あたしのせいでみくるちゃんが!!みくるちゃんを助けないと!!」 「落ち着け!!落ち着くんだハルヒ!!気持ちはわかる!!わかるから…どうか落ち着いてくれ!!」 「嫌ぁ…!放して…!みくるちゃんが…みくるちゃんがぁ…!!」 ……、 最悪の状況と言っていい。俺は…どうすりゃいいんだ? 極限状態なまでに錯乱した…今のハルヒに一体どんな声が届くってんだ…?仮にハルヒの立場だったとして、 今頃俺はどうしていただろうか?発狂していたのだろうか?だとして、そんな半狂乱な俺を… 俺はどうすれば救ってやれる??何をすれば救ってやれる!? その瞬間だった 「あ…、ああっ…、……」 卒倒するハルヒ …… …ハル…ヒ? 「ハルヒ!?おいしっかりしろ!!!!大丈夫か!!?ハル」 !? 何だこの揺れは…?地震…??規模こそ小さいが、一昨日見た夢を思い出さずにはいられなかった… …… …冗談がすぎるぜ…世界が滅ぶのは12月23日の段取りだったはず… 今日はまだ12月1日だぞ…!?今日で…終わるのか?何もかも…!? 「今のハルヒの失神は…、まさか!覚醒しちまったのか!?」 …何なんだこの展開は…??ここまで頑張ってきたのに…頑張ってきたってのに、 全部水の泡で終わるのか?そんな…そんなこと…ッ! しかし いくら威勢を張ったところで、もはやどうしようもないことには変わりない。 ここまで【絶望的】という言葉が似つかわしい状況もない。 …… とりあえず、地震は収まったようだが… 俺が放心状態であることに、変わりはなかった… 「た、大変!!涼宮さん…その様子だと、神としての記憶を取り戻してしまったんですね…!」 はて、この場には俺とハルヒしかいないはず。ついに俺も幻聴が聞こえるなまでに廃物と化してしまったか。 「ふう…あなた達のこと探したんですよ…って、キョン君聞こえてますか…?大丈夫ですか!?」 !! 「あ、あなたは…」 「よかった…あなたまでおかしくなってたら、それこそ終わりだったわ…!」 「朝比奈さん!!」 いつしかお会いした大人朝比奈さんが…俺の目の前に立っている。 光明が射すとはこういうことを言うのだろうか? 例えるならば WW2独ソ戦にて、モスクワ陥落を【冬将軍到来】により間一髪のところで防いだソ連。 池田屋事件にて、維新志士らにによる窮地を別動隊の【土方歳三ら】に助けられた近藤勇。 日露戦争にて、物資・国力ともに限界だったところを【敵国の革命運動】により難を逃れた日本。 関ヶ原の合戦にて、数による劣勢を【西軍小早川秀明の裏切り】により勝敗を決した徳川家康。 元寇にて、大陸独自の兵器や戦法で撹乱する元軍を【神風(暴風雨)】により撃退した鎌倉幕府。 キューバ危機にて、米ソによる核戦争を【ケネディ大統領の働き】で回避した当時の世界。 ワールシュタットの戦いにて、【オゴタイ=ハンの急死】により領土を守り切った全ヨーロッパ諸国。 2・26事件にて、不運にも義弟の【松尾伝蔵陸軍大佐の身代わり】で暗殺を逃れた岡田啓介首相。 1940年にて、【杉原千畝リトアニア領事によるビザ発行】でナチスによる迫害から逃れたユダヤ人。 クリミア戦争にて、【フローレンス・ナイチンゲールの必死の看護】により命を救われた負傷兵たち。 …挙げればキリがない。 それくらい、絶望的渦中にある今の俺からすれば…彼女の存在は例文の【】に値する。 「朝比奈さん…俺は…。俺は!どうすればいいんですか!!?」 彼女が今ここにいるということは、間違いなく何かしらの理由があるはず。そうでもなければ、 朝比奈さん小の上司でもある彼女が…自らこの時代へとやって来ることなどありえない。 だとすれば、彼女は知っているはずだ…俺が今何をすべきなのかを…! 「落ち着いてキョン君!まずは状況をしっかりと把握しましょう。それによってあなたの成すべき事も… 決まってくるわ。だから、涼宮さんがこうして倒れるまでの間一体何があったのか…私に話してほしいの。」 話す内容によって、彼女が俺に与える助言もまた違ってくるのだろうか。 俺は…事の一部始終を洗いざらい打ち明けた。 …… 「なるほど…つまり、あなた達は藤原君たちに追われていたのね?」 「はい…そのせいでこの時代に来ていた朝比奈さんが…重傷を負ってしまって…っ!!」 「…それは。さぞかし大変だったのでしょうね。」 「なぜ驚かないんです!?彼女が消えてしまえば、大人であるあなたも消えてしまうんですよ!?」 「そのくらい心得てるわ。でもね…逆に言えば、今大人である私が この場にいる…生きてるってことは、つまり彼女はまだ死んでないってことよ。」 ! 「そして、あなたと涼宮さんがここまで逃げてくるまで随分な時間が経過してる。 ともなれば、私だけでなく長門さんや古泉君も無事だってことが推測できるわね。」 「意味がよくわかりません…どうして長門や古泉までも無事だって言えるんです!?」 「考えてもみて。私は…自分で言うのもなんだけど、戦闘に関しては全くの素人。ゆえに、 殺されるのも容易いわ。万一私の傷が完治したとしても、その後無事でいられる可能性は極めて低い。」 「……?」 「つまり、長門さんや古泉君が死んで私が生きてる状況ってのは 常識的に考えて絶対にありえないのよ。 だってそうでしょう?彼らは私なんかより桁違いに強いんだから。まあ…逆は可能性として十分ありえるけどね。 私が死んで彼らが生きてるっていうのは…自分で言っててちょっと悲しいけど。」 なるほど、確かに理屈に当てはめて考えればそうなる。…実に的確な指摘だった。 「ありがとうございます朝比奈さん。3人が生きてるってことがわかって…俺、安心できました!」 「ふふ、さっきよりも落ち着きを取り戻したようで何よりね。状況の把握は大切に…ね。」 朝比奈さんはこれを見越して話してたってのか…?さすが大人の貫録だ。 「それで藤原君たちは…どんな様子だったの?」 「どんな様子って、俺たちを殺しにかかってきたとしか…。」 「一体誰を殺そうとしていたのかしらね、彼らは…」 「…?ハルヒを除く俺たち全員なんじゃないですか?それからハルヒを拉致でもして… おおかた記憶を覚醒させるつもりでもいたんでしょう。…結果として覚醒しちゃいましたけど…。」 「でも…彼らがあなたたちの殺害、ないしは涼宮ハルヒの拉致を明言したわけではなかったんでしょ?」 …… 彼女は彼らの目論見について、何か知っているのだろうか…? 「…キョン君、今あなたが言った推理は、おそらくはずれよ。」 …はずれ??どういうことだ? 「単に、あなたたちは成り行きで彼らの障壁となってしまっただけ。彼らからすれば、 初めからあなた達は眼中になかったわ。ましてや、殺害など論外ね。」 …?彼女の言っている意味がよくわからない。 「じゃあ、藤原たちの目的は他にあったってことですか??…それは何ですか!?」 「…混み合った話はまた後にしましょう。涼宮さんをこのまま放置したまま話し続けるのも…胸が痛むわ。」 …確かにそうだ。倒れてるハルヒをどうにかせねばなるまい。 「とりあえず、彼女を背負ってこっちに来てくれないかしら?いつまでもここが安全とは限らない。 閉鎖空間と化しつつある現状では先ほどの地震といい、何が起こったっておかしくないもの。」 朝比奈さんの言う通りだ。 …俺は彼女の言うことに素直に従い、ハルヒのもとへ駆け寄った。 「…ハルヒ、大丈夫か…??」 …… 返事がない…どうやら本当に気絶してしまっている。俺は連れていくべく…ハルヒの肩を担ごうとする。 その時だったか ? 背中が妙に熱い …… …何だこの不快感は? いや、不快なんてもんじゃない…これは 生物に 本来あってはいけないものだ 「う…!!あ!!!!が…ああ…っ!!!!!」 猛烈な激痛 混沌とする意識 一体 何が起こった 俺は 背中を手で 触ってみる …… 何だ このどす黒い 赤い液体は 意識が 朦朧とする 「キョン君…さっき私に聞いてましたよね?自分が今成すべき事を。それはね、 死ぬことよ。」 「冥土の土産に教えてあげる。藤原君たちの本当の狙いはね、私の抹殺よ。」 「まさか、涼宮ハルヒを昏睡状態に陥れた犯人が 私だったなんて想像もしなかったでしょ。」 俺 を 立って 見下ろす こいつは 誰? 「まさか、ここまで上手く事が運ぶなんてね。アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」 俺 を 見下し 笑う こいつは 誰? 意識が途絶えた …… ここはどこだ?辺りが真っ暗で何も見えない……そうか、あの世か。俺は死んじまったのか 2012年12月1日22時23分 俺は朝比奈みくるに刺殺された
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/1882.html
思わぬキョンの強引さに、あたしは少し眉をひそめつつ、諦めぎみに目を閉じた。いいわ、もう。煮るなり焼くなり、今度こそあたしの事をあんたの好きにしなさい、キョン――。 布団の冷たさとキョンの温もりとの狭間で、熱気を帯びたあいつの吐息が降りてくる。心持ち尖らせたあたしの唇の先が、やがて包み覆われていく。 なんだろう、初めてのキスなのに、初めてじゃない感じ。求めていたものが満たされていくような、そんな感じ。 できる事ならずっと、こうしていてほしい。開けば生意気な言葉ばかりポンポン飛び出すあたしの口なんか、このまま塞ぎ続けてほしい。ねえ、キョ…んっ? わ、わ。キョンの奴、一度唇を離して息を吸い直したと思ったら、今度はさっきよりも強く、こするように押し付けて、あたしの唇の間を割って舌先を入れてきた…。 いやあのその、あたしだって大人のキスがそーゆーものだって事くらい知ってるわよ!? でもちょっといきなりすぎっていうか、こっちだって心の準備ってものが、ねえ? う。あたしの前歯の上下の境を、キョンの舌がなぞってる。もっと奥にまで入り込みたいの? そうなのね? 仕方がない。そう、仕方がないので、あたしはあいつをもう少しだけ受け入れてやる事にした。――その数秒後、あたしは自分の判断および見通しが甘かったのを思い知る事になる。 ちょん、と先端と先端が触れて、それだけで怯えたように逃げるあたしの舌を、キョンの舌が追いかけて、押さえつけ、絡め取るように根元から舐め上げ、吸い上げて…。 ちょっと、ちょっと何よこれ!? なんかこれエロい! エロいわよこのキス! なんとなく口の中の出来事をあたしとキョンに置き換えて想像してみたら、体の奥の方が大変な事になってきちゃったじゃない。 あーん、前に見た夢だってリアリティありすぎだって思ってたのに! 現実はさらに凄いってどういう事よ!? もうっ、キョンのすけべぇ! ヤバい。いや本当に。これは少々ヤバいかもしんない。あたしは薄ら寒い恐怖さえ感じていた。キョンの事をあまりに過小評価していたのかもしれない。 単になりふり構わずっていうだけの感じだけど、こうも一気呵成に攻め込まれたんじゃ…好きにしなさいどころじゃないわ、まるで抵抗できない。このままじゃ、あたしがあたしでなくなっちゃいそう。だいたい、キョンの奴にいいようにあしらわれっぱなしっていうこの状況が気に食わないわ。キョンのくせに、生意気よ! なんとか主導権を握り返さなきゃ、と焦燥感に追われるあたし。しかしながら…いつも古泉くんとやってるボードゲームの成果なんだろうか、あたしはまたしても、あいつに先手を打たれてしまったのだった。 キ、キ、キスしながら耳を撫ぜるなあっ! あやうく、あたしは官能の波に飲まれてしまう所だったわ。けれどもその間際、頭の中にふっとひとつの疑問が浮かんで、あたしは精一杯の力でキョンに抗った。 「ぷはっ。ちょ、ちょっと待ちなさいよ、キョン!」 「あ…悪い、なんだか夢中になっちまって。息、苦しかったか?」 「それは別にいいのよ! いや良くないけど!」 「どっちだよ」 「だから、あたしが言いたいのはそういう事じゃなくて! …なんだかあんた、やけに手馴れてるじゃない。ひ、ひょっとして初めてじゃ…ないの?」 訊ねてから涙目になりそうになってしまっている自分に気付いて、あたしは内心でひどく狼狽した。 可能性として、あり得なくはない。でもキョンもあたしと同じように初めてのはずだと最初から疑って掛かりもしなかったのは、それは、別の答えを認めたくなかったからなんだ。知らなかった。あたしが、こんなに独占欲が強かったなんて…。 そんなあたしの葛藤を知ってか知らずか、キョンの奴はあたしの問いに、憮然とした表情で答えた。 「バカ言え。何の自慢にもならんが、俺は正真正銘たった今が青い春と書いて青春真っ只中だ」 「嘘! 嘘よ、だってあんた…」 「なんだハルヒ、お前『門前の小僧、習わぬ経を読む』という言葉を知らないのか?」 「へっ?」 「つまりは、見よう見まねって事だよ。 お前の朝比奈さんに対するセクハラ攻撃を、いったい俺が何度止めに入ったと思ってるんだ? あれだけ見せつけられりゃ、嫌でも目に焼きつくっての」 そうしてあいつは、あたしの耳元に顔を近づけて「本当はずっとお前にこうしてやりたいとか思ってたかもな」なんて小声でささやくと、あたしの耳を、はむっと甘噛みしてきたのだった。もう。キョンの奴ったら調子に乗って、ここぞとばかりに! でも安心感で満たされちゃったあたしの心と身体は、キョンの攻勢を受け入れざるを得なかったのよね。そっか。そこまであたしの事を見てるのか。うん。それならまぁいいわ。何が? 知らないけどまぁいい。 ここはあんたのお手並み拝見と行きましょ。たまにはあたしの事をきちんとリードしてみせなさい。ねっ、キョン――。 それからまあアレやコレやを経て、あたし達の最初のセックスは終わった。 別にごまかすつもりはないんだけれども、この後の事は断片的にしか記憶がない。お互いに初めてだったせいもあって、何というかおままごとみたいな? そんなつたないセックスだったと思う。 でもまあ、あたしは結構満足していた。右も左も分からない中を無我夢中で駆け抜けるような、あんな感覚って嫌いじゃない。誰かに手ほどきを受けるより、むしろその方が痛快じゃないの。 当然ながら、反省点も多々あるんだけどね。 えーと、ほら動物の世界で『マウント』ってあるじゃない。犬とかが自分の優位性を誇示するために他の犬にかぶさる、ってヤツ。 アレの最中は、やっぱり人間も動物みたいになってるんだか――その、あいつがのしかかって来るたびに「ああ、あたしは今、キョンのモノにされてるんだ」って思えて…それが何故だか嬉しくって…。 一個人としては「女の子をモノにする」っていうのはむしろ不愉快な表現なんだけども、でもあの時ばかりは不思議とあいつの体重を、ベッドのスプリングに分けてやるのが無性にもったいないような気がしたの。 で、キョンの奴が「もう少し力抜いた方がいいぞ」って言ってるにも関わらず、やたらと四肢を踏ん張ってしまったあたしは現在、首から背中にかけてアンメルツヨコヨコの匂いを漂わせたりしているのだった。あと実は、お腹の中もちょっとヒリヒリ痛い。生理用の痛み止めでなんとか紛らわしてるけど。 教訓。その場の感情に流されすぎちゃダメね。利用できる物はきちんと利用するべきだわ。そう日記には書いておくとしよう。 それにしても。 『涼宮ハルヒ秘密日記』のページ上にトントンと意味もなくペン先を振り下ろしながら、あたしは口をアヒルみたいにしていた。 今更ながらに思うけど、キョンの奴ってズルい! ううん、あいつがズルいのは前々から分かってたのよ。毎度あたしの後ろからひょこひょこ付いてきて、美味しい所だけご相伴に預かろうとするような奴だものね。 でも、今回ばかりはちょっと許しがたい。そうよ、あの行為の最中は気が付かなかったけど、こうして家に帰ってお風呂に入って夕食を済ませてから落ち着いて思い返してみるに――。 キョンの奴、あたしに「好き」とか「愛してる」とか、まだ言ってないのよ!? あたしに散々アレだけの事をしておいてッ! あたしの初めてを…あんな風に奪っといて…。 いやまあ、実はあたしの方も改まって告白したりするのは気恥ずかしくて、まだきちんと言葉にしてはいなかったりするのだけれども。ただ礼儀として、あーゆー事したからには男の方から言ってくるのが作法っていうか? 確かに『古泉くんとあたしがナニするのを邪推して嫉妬した』みたいな事はあいつも言ってたけど、でも「嫉妬した」と「好き」は微妙にイコールじゃ無いじゃない!? それとも…キョンはやっぱりあれは一時の対処療法みたいなものだとか思ってて、好きだの愛してるだのっていう形而上の言葉であたしを拘束してしまうのが嫌だったんだろうか。 確かに胸の話とか、「行動に枷をはめられるのはイヤ」みたいな事を言ったのはあたしの方なんだけども。でもどっちにせよ、キョンの奴ってばやっぱりズルいと思う! うん! …そこを含めて、好きになっちゃったから参ってるのよね。 机の上の小さな鏡を見ながら、左の頬を撫ぜてみる。あたしの頬をはたいた時のキョン…恐かったけど、格好良かったなあ。あんなに真剣に怒ってくれるのは、あたしの事が大切だから、だよね? まあいいわ、今回だけはキョンの無礼を見逃してあげるとしよう。一応、コトが終わった後に、 「ハルヒ…今のお前、反則的なまでに可愛かったぞ…」 なんて事は言ってくれたし♪ あ、でも調子に乗って、汗やら何やらでベタベタした手で頭を撫ぜたりしないでよねっ? リボンが汚れちゃったじゃない! ちょうど替えがあったから良かったけど。あ~あ、これ割とお気に入りだったのにな。一度染み込んじゃうと、洗濯したってこの匂いはなかなか落ちな……… ここは自分の部屋の中で、もちろん居るのはあたし一人だというのに、なぜだかあたしは左右をきょろきょろ見回して、それから机の引き出しに、そっとリボンをしまい込んだのだった。 そ、そうよ、このリボンはもう人前じゃ付けられないから、ずっとこの中にしまっておく事にするわ、うん! …いったい誰に向かって言い訳してるのかあたしは。 はあ、それにしてもまあ。たった一日の間にファーストキスから何から、我ながらずいぶんとコトを進めてしまったものだ。 ついこないだまで、恋愛なんてのは交通事故みたいなもので、きちんと注意さえしていれば回避できるものだと思ってたのになあ。今はもう、四六時中あいつの事ばかり考えてる。キョンの奴には、出会い頭に思いっきりハネられちゃったって感じよね。ほんと、不覚だわ♪ …って、あれ? ちょっと待って!? そういえばキョンの奴、昼間、喫茶店でこんな事を言ってなかったっけ? 『人間なんて明日どうなってるか分からないから、みんなもせめて事故とかには気をつけろよな。特にハルヒ』 それからあたしに向かって『お前は直情径行の向こう見ずで、後先考えずに動くから』とか何とか言ってたような…。 えっ、えっ? ひょっとしてアレって、いわゆる暗示って奴? キョンってもしかしてもしかすると、予言者!? なんてね。たかだか1回セックスしたくらいで、奴の事を特別に不思議な存在だとか勘違いするほど、あたしは愚かじゃないのだ。 だいたいアレを『予言』だなんて言うんなら、あたしにだってそのくらい出来るわよ。そうね、たとえば――。 言わせて貰うなら、セックスなんてのは単なる行為のひとつに過ぎない。少なくともあたしはそう思ってる。 愛情がなくったって出来るし、何の証明にもならない。セックスしたから彼はわたしの物♪なんて、おかちめんこな考え方は噴飯物だ。一時の気の迷いで、そうひょいひょいと人の所有権を移動させないでほしい。 結局その考えは、あたしこと涼宮ハルヒが実際にセックスを経験した後も、特に変わる事はなかった。だからやっぱり、セックスなんてただの行為なのだ。 ただ、これだけは断言しておこう。 客観的、一般的には単なる行為だけれども、このあたしにとってはあんなに痛くて恥ずかしいコトは、よっぽど好きな奴が相手じゃなければとても出来やしない、と。経験者として、それは確信できる。そして今のあたしにとって、その相手はただ一人だけ…。 そう考えている内に、あたしは無意識に携帯の通話ボタンを押していた。 「(ピッ)もしもし、ハルヒか? こんな夜更けにどうし」 「分かってんの、キョン!? あんたは50億分の1、ううん、宇宙人やら未来人やらを含めても、世界中でたった一人の存在なのよ!? すごくありがたい話でしょうが! 選考委員のあたしにはもっともっと感謝するべきよ! 違う!?」 「…違うも違わないも。いきなりそんな勢いでまくし立てられたって、話の筋が全く分からん」 ああ、もう。本当に理解力にとぼしい奴ね。手間が掛かる事この上ないけど、やっぱりあたしがリードしてやらきゃだわ。 「いいから! あんたはこれからもあたしについてくればいいの! それとすっとぼけてる罰として、次に逢う時の食事代から何からは、ぜ~んぶあんたのオゴリだからねッ!」 「いや待て待て。次ってお前、今日のホテル代も結局は俺が払わせられたし、そのあと合流した朝比奈さんと長門には、なぜか特盛りパフェをご馳走させられたし、さすがに財布の中身がだな」 「なに言ってんの! 今日のあんたはみんなに心配とか迷惑とか掛けまくったんだから、そのくらい当然でしょ!? 急用で帰っちゃった古泉くんにも明日、学校でちゃんとお礼言っとくのよ!」 「へーへー。って、お前は俺の母上様か」 「うっさい! 文句があるんだったら、あたしに有無を言わせないくらいの気概をまた見せてみなさいよ、このバカキョンっ!」 ふふっ、気概を“また”見せてみなさいよ、か。 はてさて、次の機会はいつになる事やら。まるで見当も付かないけど、それまではこの、肝心な言葉をきちんと口にする事さえ出来ないムッツリスケベ男の尻を叩き続けるとしましょ。 そうして、携帯を通じてあいつへの叱咤を続けながら、あたしはこっそり今日の日記に、最後の一文を書き込んだのだった。 『初めての相手がキョンで、本当に良かった』 ――ってね♪ 涼宮ハルヒの不覚 おわり
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5254.html
「あ、キョンくん」 喜緑さん疑惑のある議事録のページをコピーしに走り、会長のところに議事録を返却しに戻り、そこで会長に俺が適当な理由を吐くまで拘束され続け、その足で部室に赴いてもう一度パソコンを起動させてみた。パスワードとあるからにはどこかにロックがかかっているのではと思ったのだが、あいにくどこも普通にデスクトップを表示するだけだった。そんなこんなしているうちに昼休みは終了してしまい、校外に逃亡しようという行為を教師に目撃されないように前後左右を確認の後抜き足差し足で、などとやっていたら脱出がかなり遅くなってしまった。 もちろん靴箱も探してみたが残念なことにラブレターはおろか手紙の類は一切入っていなかった。しかしそれも俺の右手に握られているものを思えばそれほどショックなことでもない。 俺がダッシュで校門を突破すると、朝比奈さんが急斜面の脇に生い茂る木々の隙間からひょっこりと姿を現した。 「もう、ずっと待ってたんですよー。学校の生徒さんたちに見つからないよう苦労しました」 「それは申し訳なかったです」 まるでデート的な状況ではないかと一瞬だけ思ったがすぐに萎えた。不謹慎だからとかいう以前の問題である。 俺は朝比奈さんを促して歩き出しながら話題を捻出し、 「それにしても朝比奈さんはよく誰にも咎められずに外に出てくることができましたね。仮病……演技はちょっと苦手そうに見えますけど」 「鶴屋さんに助けてもらったの」 朝比奈さんはよたよたと坂を下りながら答えた。 「あたし、演技なんて何もできないから。それでも風邪を引いたフリをしていたら、鶴屋さんが保健室に連れていってくれたんです。いえ、本当は保健室じゃなくて靴箱のところでした。何か言えない用があって帰らないといけなくなったんじゃないのって言われました」 感心を越えて笑いたくなってきた。 鶴屋さんはどこまでもできた人だ。むやみに完璧などという言葉を使いたくはないが、彼女ならあるいはと思いたくもなる。もしかするとこちらの思惑を完全に把握しているのかもしれん。だとしたら釈迦かキリストの生まれ変わりだ。パラメータ的に言うならば俺よりも一般人じゃないね。 「でも、鶴屋さんも知らないみたいです……」 朝比奈さんが憂鬱そうにうつむいたまま呟いた。 「知らないって、長門のことですか?」 「うん。訊いてみたんです。長門さんを知ってますか、って。でもダメでした」 朝比奈さんがいつになくふさぎ込んでいるのもよく解る。未来人なのに未来と関係が持てなくなったという根本的などんでん返しを食らった上に親友の鶴屋さんまでもがおかしなことになっているらしいからな。 「そんなに落ち込まないで下さいよ。大丈夫です、今までもそうだったんだから今回もきっとなんとかなりますって」 と、何の保証もない言葉を吐いてみて朝比奈さんを上の立場から慰めている自分に気づいた。 まあ、主観的にも客観的にもこんな事態は二度目であるし、慣れという恐ろしい不可抗力が働いているのだろう。それは俺の横でひたすら歩を刻んでいる朝比奈さんを見れば解る。冬の俺はこんな感じだったんだろうよ。 しかし、それだけではない確かな手応えを俺は持っていた。 喜緑さんのヒントメッセージらしきものを見つけたということだけではなくて、SOS団に味方してくれる人材についてである。ここに長門はいないらしいが、ハルヒはしっかりと俺の後ろに座っているしたぶん古泉もいる。朝比奈さんがいてこのメッセージを持っているのだとしたら、マイナス思考とかプラス思考とかを意識しなくてもそんなに落ち込む必要などないのではないかと思えてくる。 そしてまた、俺が一番に怖れているのはそのことでもある。ようするに俺はちょっとSOS団の戦力が増えたからといって調子に乗っているだけなのではないかということだ。世間は広いってことは春の一件で思い知らされたからな。やはり気を引き締める必要もあるのだろう。難しいものだが。 俺は顔を上げた。朝比奈さんは気にしていない様子だったが、いつの間にか俺と朝比奈さんの間には無言の空間が停滞していたらしかった。 * 向かったのは長門のマンションである。他に行くところなど一つも思いつかなかった。古泉に電話をかけ、朝比奈さん(大)からのメッセージがないことを確認し、生徒会室で喜緑さんのメッセージを見つけた。朝比奈さんにもそのことは話したが、全然解らないということらしい。できることならもう少し情報が欲しいところではある。 川沿いの桜並木、このまま進めば高級分譲マンションに突き当たる道を俺と朝比奈さんは進んでいた。 「何もねえか」 名探偵よろしく周囲に目を配りまくって歩いていたが、何も見つかる気配がない。あるのはサラサラなどと小気味いい音をして流れやがる川と、太陽を反射してキラキラ光る新緑の葉っぱだけ。まったく癪に障る。 川沿いの桜並木、思い出のベンチがあったりしていわくつきの場所であるし、朝比奈さん(大)が出てきたり変なものが落ちていたりするかと思ったのだが。 「どうかしたんですか?」 コマドリのようにちょこちょこと俺の後をついてくる朝比奈さんが言う。 「ここなら何か出てくるかもしれないと思っていたんです。未来からの指令とかでもよくこことか公園に来てますからね。春にも二月にも。だからひょっとしたらと思いまして」 朝比奈さんは短い吐息を漏らし、感慨深げに辺りを見回した。それから懐かしそうな目をして思い出のベンチに歩み寄り、ちょこんと腰を降ろす。 「そうですねえ。言われてみると、男の子を助けたときや亀さんを川に投げ込んだときも、最初にあたしがキョンくんにあたしのことをお話ししたのもこのベンチでしたねえ」 どれも忘れようにも忘れられそうにないSOS団的メモライズばかりだ。未来関連の話が多いような気もするが、これは仕様なんだろう。 「ところで朝比奈さん、あれから未来に連絡は取れましたかね」 「ううん」 朝比奈さんは悲しげに首を振って、 「全然ダメなの。時間平面のねじれはどんどんひどくなっていく一方で、あたしの力じゃこの先は見渡せないくらい。どのくらい分岐が増殖しているのかも解りません」 「どの分岐に入ったとかも解らないんですか?」 「……ごめんなさい」 「いえ、謝らなくてもいいんですよ」 これは俺の予想だが、今はどこかの分岐を通った状態にあるのではないかと思う。俺の鞄にねじ込まれている喜緑さんのメッセージを手に入れたのはかなり大きいはずだ。バッドエンドの分岐をとっとと切り抜けてくれるといいのだが。 * 長門のマンションには程なく到着した。道に地雷等が仕掛けられたりしていなかった代わりにヒントになるようなものもまったく落ちておらず、気がついたらマンションが目の前にあったという感じだった。 この高級マンションの長門の部屋になら何度となくお邪魔した経験があるため俺一人や朝比奈さんを連れていたとしてもすぐに行ける自信がある。しかしこのマンション、高級な故に玄関に鍵がかかっていやがり、一般人は部屋の前に行くことすら不可能な設定になっていた。かつてハルヒが朝倉の転校調査に乗り出したときのような犯罪すれすれの技をもってすれば侵入可能なのかもしれないが、俺は一般常識を一般人並に身につけているし何となく中に入りたい気分ではなかったのでやめておいた。あそこに違う家族が楽しそうに住んでいたりするのは見たくない。 玄関口にインターホンがついていたので、それで長門の708号室を呼び出してみた。 長門が出てこようなどとは思っていなかったが、やはり誰も出てこなかった。繋がりもしない。ノイズもなし。 「ダメか」 ついでに朝倉の部屋も押してみたがこちらも繋がらなかった。いてくれても困るが。 「ないとは思いますが外出中か、あるいは最初っからいないかですね」 「そうですか……」 さて学校をフケたはいいがもう行くところがなくなってしまったなとか考えていると、今までもじもじしていた朝比奈さんが意を決したかのように顔を上げた。 「あのっ、キョンくん」 朝比奈さんは真摯な瞳をしていた。 「あたし、今度こそ役に立ちたいんです。頑張って長門さんを見つけましょう。あたしとキョンくん、それに涼宮さんと古泉くんもいるかもしれません。……本当はずっと長門さんに頼りっぱなしで心苦しかったんです。一人だけ上級生なのにちっとも上級生らしい振る舞いができなくて、逆にみんなに助けられてばっかりで」 そんなことはない。 何度も言うようですが、朝比奈さんがいなかったらSOS団は成り立たないんですよ。いなかったら俺のストレスは溜まり放題でハルヒとしょっちゅうケンカして、そうしたら古泉のバイトも増えていたことでしょう。毎日が平和なのはいわば朝比奈さんのおかげなんです。 しかし朝比奈さんは哀愁を漂わせて弱く微笑むだけだった。 「キョンくんがいつもそう言ってあたしを励ましてくれるのはうれしいです。それだけでも頑張ろうって気になれます。でもね、あたしの役割はそれだけじゃないんです。涼宮さんが言うような、そのぅ……」 朝比奈さんはそこだけどもって少し赤くなりながら、 「マスコットみたいな人ならあたしじゃなくてもいると思うんです。だから、あたしがSOS団にいるには未来人って肩書きがないとダメなの。それなのに最初から今日までいざというときは長門さんやキョンくんや古泉くんに助けられてばかり。あたしが未来人として行動できたときなんてほとんどありません」 「それは仕方ないことなんですよ、朝比奈さん」 未来人として動こうにも、未来から何も教えられていないのだからそんなのは絶対に無理なのだ。それに、何も知らされていないのは決して朝比奈さんに実力がないからとかいう理由ではない、と俺は思っている。実際、彼女はもう何年かすると立場的にもグラマー度的にも大幅にプラス補正が施されることになるのだ。そりゃあ未来人なのに気の毒だと思ったことは数知れないが、それは知らされていないのだから仕方がないことなのだ。人間、自分の知らないことを知るには何かの情報に頼るほかないのだから。 「それに、朝比奈さんは自由に行動したくてもできないようにされているんでしょう。未来にそういうふうに干渉されてるんじゃないんですか?」 「だからなんです」 朝比奈さんは必死な声を出した。 「あたしは今まで未来から禁則という形で縛りが入れられていたから自分の思うように行動できませんでした。だからみんなに助けてもらわないといけないのも仕方ないと自分で慰めていたんですけど、それじゃどうしてもあたしがみんなに後ろめたいです」 さすがに俺も朝比奈さんの真剣な声に黙り込んだ。朝比奈さんの言葉を待つ。 「でも、今は違います。未来と接続を絶たれた今のあたしは、未来とは独立した存在なんです。禁則も解除されました。だから今度こそ、あたしは未来に影響されることなく自分の信じるように行動したいんです。みんなの力になりたい」 そのセリフは以前に誰かから聞かされたな。自分の能力を封印することで未来に束縛されることなく行動できるようになった、とか。未来なんてのは知らない方がいい。何かが起こった度に一喜一憂すればいいのだ。そんな感じの意味を持ったセリフをな。 背負うモノなんてないほうがいいに決まっている。事実、未来予知や超能力を使えない代わりにリスクや得失を考慮しなくてもいい俺はずいぶんと自由に行動できているのだ。 いつだかの俺は超能力者や宇宙人を万能の神だとか信仰していたように思うが、今ならそんな考えは一蹴できるね。万能の神には神なりの悩みがあるし、それは俺の悩みよりもはるかに重たいのだ。何の能力もないほどラクチンなことはない。 * 俺の鞄に入れてあった携帯電話が騒ぎ出したのは、過去に何事か事件のあった場所をすべて周り尽くすくらいしたときだった。川沿いの桜並木、近くの公園、ルソーの散歩道。 時間つぶしと大して変わらないのは重々承知である。しかし、もし何か可能性があるのなら行くしかない。とはいっても結局見つかったのは生徒会室のメッセージだけだったのだが。 『こらあっ、キョン!』 古泉かと思ったが違い、電話の主は俺に近所迷惑の大声で怒鳴りつけてきた。 『あんた今どこで何やってんの! 素直に言ったら極刑だけはやめにしてあげるから早く答えなさい』 「あー、まあとりあえず落ち着け」 落ち着くわけがない。電話線の向こうでハルヒはますますいきり立ち、携帯電話を思わず手放したくなるような音量になった。 『あんただけならいいわよ。いいえ、よくないけど、それにしたって何でみくるちゃんも古泉くんもいないのよ! ストライキなら諦めなさいよ。あたしはこれよりも譲歩するつもりはないから』 「ストライキなんかじゃねえよ。お前にそんなもんを仕掛けるような命知らずはいないぜ。そうじゃなくて、古泉はカゼで本当に休みなんだ。朝比奈さんは用事ができて今日は早退してるらしい」 ハルヒの直感力に勝とうとは思わん。俺はできるだけ事実に近いことを話した。 『古泉くんがカゼでみくるちゃんが用事ねえ。都合がよくて疑わしいわね』 「本当なんだよ」 『まあいいわ。で、あんたは何なのよ。午後の授業サボるなんて意外と度胸があるのね』 度胸も何も、俺が無許可で学校を飛び出したのは後にも先にも二回っきりだ。よほどの理由がなけりゃ、そんな教師の反感を真っ向から食らうようなマネはしないぜ。 『だから、その理由ってのは何なのって訊いてるの。よほどのことがあったんでしょ? 長門なんとかって娘のこと?』 「ああいや……うん、そんな感じだな。えーとだな、今日の昼休みに電話がかかってきやがったんだよ。急に引っ越すって。だから最後に一目会いたいって言うんだが時間がないらしくてな、仕方なく俺が学校を抜け出してきたんだ」 我ながら苦しい嘘である。 というか、嘘のレベル以前にこういう話はハルヒ相手には禁物なのだ。どう禁物かというと、それは俺の口からはいろいろ葛藤の末言い難いことであるし俺自身よく解らないしハルヒもよく解っていないのだろう。結果論ならば古泉のバイトが増えるってことだな。 『ふうん』 ハルヒは半分疑っているような口調で、 『別にいいわよ。あたしは団員の諸事情には口をつっこんだりしないから。ちゃんとした理由があるなら部活を休むのも許してあげるわ』 「悪かったな、無断欠席して。なんなら今から戻ろうか? もう授業も終わっちまってるだろ」 『今日は休みでいい。どうせみくるちゃんも古泉くんもいないし。ただし埋め合わせはするわよ。今日は休む代わりに明日の土曜日、いつもの駅前に九時集合ね。今度はしっかり来なさいよ。あとこのこと、みくるちゃんと古泉くんにも伝えておきなさい。いいわね?』 「ああ解った解った。そんくらいならやってやるよ」 さて古泉にはどう伝えてやろうかと考えているうちに電話は一方的に切れた。もう帰ると言い残して。 俺も携帯電話をしまうと、マンションの日陰にたたずんでいる朝比奈さんに向き直った。 「明日、市内パトロールだそうですよ。九時に駅前集合です」 「そうですか。なんだかあれをするのも久しぶりですよねえ」 そりゃ、春にはこちとらいろいろあったからな。ようやく元の秩序を取り戻しつつあったわけなのだが。 「しかし、長門のことはきれいさっぱり消し去られてますね」 「はい?」 「電話でハルヒと話してても、やっぱり長門を知らないんです。明日駅前に集合するのは四人だけの予定なんですね。部室もそうです。あいつに関するものが一切なくなってるんですよ」 俺は目の前にそびえ立つマンションをあごでしゃくって、 「ここも空き部屋になってるらしいですし」 「あのう、キョンくん。もしかして部室であたしとか古泉くんの持ち物とかもなくなってたりしませんでしたか?」 「は? いや、ポットも急須も普通にありましたけど。何でまた?」 「ううん。ちょっと心配になったから。もしあたしのがなくなってたらどうしようと思って」 そうなんだよな。 まったく同じなのだ。長門がいないということを除けば、この世界で昨日と矛盾していることなんか一つもない。ハルヒも谷口も国木田も。長門有希という存在だけがなくなって、そこにポッカリと穴が開いているだけなのだ。 そしてその分の埋め合わせはされているらしい。文化祭のギターや映画撮影での朝比奈さんの敵役。長門という女子は最初からいなかったかのように、都合よく連中の記憶が変わっているのだ。 「本当に、何にも証拠がないんですよね」 そして長門が存在したという証拠は何一つとしてない。七夕の短冊にいたってまで、長門の分だけが不気味にも消え失せていた。 まるで存在そのものが抹消されちまったみたいにな。 * ハルヒが下校するときに俺と朝比奈さんが一緒にいるところを目撃されるのはまずそうだったので、適当に話をまとめて頑張りましょうと言ってから、ハルヒがやって来る前に別れて家路についた。 さんざん探し回った結果俺が見つけられたのはよく解らんパスワードが刻まれた生徒会議事録のコピーだけだったが、脈のありそうなところをすべて回ってこれしか出てこなかったのだから仕方ないだろう。証拠は早くも出そろってしまったらしい。後は推理するだけだ。 家に帰るとすでに妹が帰宅しており、俺の足音を聞きつけるなり眠そうにしているシャミセンを抱きかかえてひょっこり現れた。 「あ、キョンくん、おかえりー」 無邪気に笑う小学校六年生に俺はさしたる期待もせず長門のことを訊き、まったく芳しくない答えを投げつけられ、ついでにふと思い出したのでシャミセンが我が家に来た経路を訊いてみた。 「んー、シャミのこと? キョンくんど忘れ?」 さあね。お前の記憶が正しいかどうかテストしてやってるのさ。 「映画撮影でもらってきたんだよな?」 「そうだよ。ウチに来てよかったよね、シャミ」 ふむ。やはりそこらへんは正しいらしいな。長門に関する記憶と事実以外は昨日と同じなのではないだろうか。 「ねー、よかったねえ?」 妹にかかえられた災難猫は、どうでもいいから早く横にさせてくれと言わんばかりの顔で俺に懇願してくる。悪いな、今はお前に構ってらんないんだ。またいつかみたいに喋り出すならともかく、たぶん喋らないだろうことは解っている。まあこいつには映画撮影でも阪中の件でも借りがあるからいつか返さねばならんだろうが、少し待っててくれ。そのうちいらなくなった服をズタボロにさせてやるから。 人間にさえ伝わらないテレパシーが猫相手に通じるはずもなく、うにゃあとマヌケな声を出すシャミセンを後にして俺はさっさと二階に上がった。 * もはややり残したことはない。あらゆる可能性はたった一日で見事に潰れてしまった。俺の働きっぷりと疲労の割にそれがまったく報われないのもムカツクが、今は愚痴をこぼせるような相手すらいない。気が狂っていると誤解されるだけだ。 もしいるとすれば――と俺は携帯電話を手に取る。 あの超能力野郎しか思い浮かばないね。 何となく古泉がこの世界にいることは解っているのだ。ハルヒや九組の連中が古泉のことを知っていたし、ボードゲーム各種はきちんと部室にあって、七夕の『世界平和』『平穏無事』なる今日見たらひどい軽薄さを感じた四字熟語も風に踊っていた。 はたして、電話はスリーコールほどで拍子抜けするほどあっさり繋がってしまった。 『古泉です』 ああ。 何やら嬉しさのような達成感のようなものがこみ上げてきた。悟りの境地に達したのを自覚した瞬間の人間ってのはこんな感じなんだろうか。しかし悟りの境地ってのは何なんだろう。何しろ俺はいまだに悟ったものなどなくただ漫然と毎日を過ごしていたはずで気がついたらこんな事態になってたりして、放っておいても奇妙奇天烈な人生を送っている自分を客観視する自分がどこかにいるような、いやこれが悟りってものなのか。ふむ。 と、まったくどうでもいいことを考えて俺は頭を振った。違う違う。 古泉です。 向こうにいるのは古泉で間違いない。古泉の携帯電話にかけているのだから古泉以外の誰かが古泉の声マネでもして話していない限りこいつは古泉だ。 しかし何て言えばいいのだろう。ぶつけてやるべき質問と苦情が多すぎる。何だこの状況は。長門はどこだ。お前はどこにいる。俺に連絡よこせよ。ふざけんな。 俺がしばし黙していると、向こうから再び声がした。 『ええと、どこから申し上げるべきでしょうか。ああ、僕や「機関」の仲間はあなたと同じ、正常な記憶を持っていますから確認の質問はパスさせて下さい。こちらもあまり時間がありませんから。またそれ故にこちらからあなたに連絡している暇がなかったのですが、とりあえずそれを詫びておきましょうか。申し訳ありません』 「そんなことはどうでもいい。これはいったい何が起こってやがるんだ。なぜ長門がいない? お前はどこにいる。何で昼間かけたときに繋がらなかった?」 『おや、そんなことは解っていると思っていたのですが』 古泉は作り声で意外そうな声を出し、 『閉鎖空間ですよ。それも特大のね。昼間から、正確に言うと昨日の夜あたりからずっと異空間バトルの状態です。今はちょっと外にいますけどね。《神人》がわんさかいて、実に壮大な眺めでしたよ。ぜひあなたにもお見せしたい』 そんな軽口がたたけるようならずいぶんと余裕があったもんだろう。質問の嵐以上に怒りが沸いてきた。 「そんなことより長門はどうなってるんだ。それに喜緑さん。この世界から消えちまってるのか?」 『その通りです』 古泉は単純明快に答えた。相変わらず、丸一日サイキックバトルをしてたとは思えん爽やかな声である。 『実を言うと長門さんや喜緑さんだけではありません。推測するに、昨日から今日にかけて情報統合思念体製のすべてのインターフェースがこの世界から消えているのでしょう。少なくとも、我々「機関」とコンタクトを取っているTFEIはすべていなくなっています。そしてこの巨大な閉鎖空間。とんでもない事態ですね』 誰の仕業だ。やっぱり周防九曜か。 『さあ、そこまではさすがにね。まあ、僕は彼女の一派だと思っていますけど。そうでなかったら長門さんのような方々を一気に消し去ることができる存在は、僕の知る限りでは有り得ませんからね』 俺の知る限りでもそんなやつは九曜ぐらいしか思いつかん。あとハルヒにも可能と言ったら可能な気もするが、あいつは間違ってもそんなことはしない。 「どうすればいい。まさかお前だって長門が消えちまってるこの状態を放置する気はないだろ」 『当然ですよ。僕たちは共同体ですからね。五人で輪になって初めて意味を持つんです。今となっては、誰を引き抜くこともできません』 それは俺も何度となく考えた。ハルヒという巨大恒星を中心として公転する惑星の俺らはハルヒも入れて必ず五人なのだ。土星や火星でもいきなりなくなったら地球内外が大混乱するに相違なく、太陽が消え去った日には俺らはあっという間に全滅である。そんなことはあってはならないんだ。 『ただし』 古泉が真面目な声で付け加えた。 『どうすればいいと訊かれると僕は返答に詰まります。あなたや僕、それに朝比奈さんがこれからどう動けばいいのか、どんな方向を向けばいいのか、はっきり言って僕にはまったく解りません。非常に自己嫌悪に陥りますが、正直、長門さんがいないと僕たちだけではどうしようもないんです。感覚的な問題ではなく、冷酷な事実としてね』 俺が何とも言えないいらだちを覚えて黙っていると、 『おっと。そろそろ時間が厳しくなってきましたね。ごくわずかなハーフタイムももう終了してしまいそうです。それでは、またお会いしましょう』 「待て待て」 まだ肝心なことを言っていない。訊きたいことなら腐るほどあるが今その時間はないらしい。訊きたいことにはしばらく腐ってもらうほかないな。 『何でしょうか?』 「お前、明日は来られそうか? 市内パトロールだってよ。無理なら俺からハルヒに伝えとくが」 こんなときに市内パトロールもへったくれもない。不思議なことなら目の前にあるってんだ。 古泉はしばらく考えている様子で息づかいだけがこちらに伝わってきたが、 『行きますよ。それしかないでしょう』 そう答えた。 『僕の業務は「機関」の一員であってまた、SOS団の副団長ですからね。とにかく涼宮さんが最優先です。《神人》を狩る者はたくさんいますが、市内を涼宮さんと一緒に歩き回れるのは僕だけなんですよ。なんともありがたく、嬉しいことにね』 古泉はいまいち真意がつかみかねることを言ってのけ、今度こそさようなら明日お会いしましょうと言って電話を切った。 「キョンくん電話ー?」 携帯をしまい終えると妹がシャミセンを抱えたままノックなしに俺の部屋に立ち入ってきた。せめてノックだけはしてやってくれよ。俺にだってプライバシーってやつがあるし、そうじゃなくても訊かれちゃまずい会話ってのはあるんだぜ。 俺はしっしと妹を追い払いながら、 「まあな。俺もいろいろと忙しいんだ。お前も友人には気をつけろよ。友人によって一生楽しく過ごせるか一生後悔し続けなければならんか決まっちまうんだからな」 「はあい」 妹は解ったんだか解ってないんだかよく解らん顔になって、シャミセンを俺の部屋に放置すると最近リメイクされたごはんの歌(新バージョン)を口ずさみながら階下へと消えていった。どうせ我が妹はあんなやつだ。ミヨキチのようなできた友人がいてくれれば問題ないだろうが、心配にはなるね。もっとも、今心配すべきことは妹の将来ではないのだが。 「にゃう」 床に放置されたシャミセンが愉快そうな声を立てた。一日でもいいからシャミセンになりたいものだ。自分の部屋で(シャミセンにとっての自分の部屋は俺の部屋である)一日中ごろごろできたらどんなにリラックスできるだろうか。そんなことしても無気力感が増すだけだと解ってはいるがやってみたいと思うのはなぜだろうね。誰か教えてくれ。 「やれやれ」 俺は常套句を吐くと、床に寝転がるシャミセンをなでてから自分のベッドに倒れ伏した。疲れた疲れた。今はもう何も考えたくない。
https://w.atwiki.jp/sosclannad9676/pages/65.html
県立北高校に通う高校生。 女。 キョンと同じクラスで、1年5組、2年時は2年5組。 キョンのすぐ後ろの席に座る(願望を実現する能力のためか) 学業の成績は学年上位に位置しており、身体能力も高く入学当初はどの運動部からも熱心に勧誘されていたほど。 また料理、楽器演奏、歌唱など多彩な才能を持っており、キョンや、谷口も認める、性格以外は欠点は無い。 近所のメガネの少年の勉強を教えているなど、面倒見もいい。 普通の人間には興味がない。ゆえにさまざまな男子に告白されており、全てOKするが、数分~数日ですべて振る。 谷口いわく、最短で5分、最長で1週間だという。 谷口とは東中学校時代3年間同じクラス。2年進級時にも同じクラスのため、通算5年間である。 校庭落書き事件やさまざまな事件を起こしたりしていた。 高校に入り、宇宙人や未来人、超能力者と遊ぶための組織、SOS団を結成。その団長である。 また、本人は全く気付いていないが、古泉一樹いわく、願望を実現する能力がある。長門有希いわく、自分の都合のいいように周囲の環境情報を改ざんする力があるとのこと。 自分の都合のためなら他人の都合は考えないかなり自己中心的で、感情の起伏が激しく、情緒不安定になりやすい。また、退屈を嫌っており、何か面白いことをいつも探している。 己の目的のためには手段を選ばず、時には恐喝や強奪まがいの行為に及ぶこともある。 朝比奈みくるや鶴屋さん、生徒会長、など年上でもタメ口で話すが、初対面の相手などは敬語で、丁寧な対応をする場面もあるため、非常識ではない。 団員の危機には手段を選ばず助けるというかなりの団員思い。 アルコールを飲むと泥酔してしまい、かなりの酒乱になるそのため、孤島症候群以降、アルコールは一切飲まないと誓った。 また、あらゆる組織から監視、観測されており、 情報統合思念体にとってハルヒは自立進化の可能性であり、3年前、異常な情報フレアが観測された。 未来人にとっては、時間の歪みであり、3年前大きな時空震が観測された。 機関にとっては、神扱いで、願望を実現する能力があるとみている。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3398.html
さて、今現在俺はとある病院のベッドに寝ている。 左腕と左足はガッチリとギプスで固められており、当たり前だが全く動かせない。ある意味左半身不随である。 と、ここまで表現すればもう俺が左腕と左足の骨を折ってしまったということは理解していただけるだろう。 とりあえずここまでの経緯を簡単に説明することにする。 事の始まりはハルヒが階段で足を滑らせたことだった。 ハルヒより数段下にいた俺はハルヒの悲鳴に驚いて後ろを見た瞬間に足をすくわれ、 そしてハルヒもろとも下の階まで転がり落ち、気付けば腕と足がポッキリと逝っていたというわけさ。 そりゃまあ、怒りの感情も少しは湧き出てきたが、あのハルヒに泣いて謝られたら誰だって許さざるを得ないだろう。 ただ、ハルヒも右足を折ってしまい、同じ病院に入院している。いや、同じ病院と言うと範囲が広すぎるだろうか。 「ねぇキョン、暇なんだけど、なんかおもしろいことない?」 何故か同じ”病室”の隣りのベッドにいるわけだからな。 ~キョンとハルヒの入院生活~ 不定期保守連載始まるよー\(^o^)/ *** 「ところでさ、あたしたちが一緒の病室にいるのっておかしくない?」 そう言われてみるとそうだよな。 「男女を同じ病室に入れておくなんて普通じゃ考えられないわ。この病院PTAに目つけられるわよ」 PTAはどうか知らんが普通じゃないってのには同意見だ。とりあえずナースコールでもして抗議するか。 「えっ・・・・・・ちょっちょっと待って!」 どうした?お前だって俺なんかと一緒の部屋に入ってるのは嫌だろ。 「えっと、あのー、うーんとわざわざナースコールしてまで部屋分けなくてもなーって」 じゃあ次に誰か来たら言うか。 「いやいいの!別にこのままでいいから!キョンも言うのめんどくさいでしょ」 別にめんどくさくは・・・・・・ 「だーかーら!このままでいいって言ってんの!」 結局ハルヒのよくわからない意見に強引に賛同させられることとなった。やれやれ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「きつね」「ねこ」「古泉」「人の名前もいいの?みくる」「ルーマニア」 さてハルヒが暇だ暇だとうるさいので定番のしりとりをやっているわけである。 「アジア」「アイス」「ス?・・・・・・ス・・・す・・・」 スは悩む所じゃないだろ。スイカでも酢昆布でもなんでもあるだろうに。 「す・・・・・・す・・・・・・すき・・・・・・」 あ、悪い、聞こえなかった。 「・・・・・・スキー!スキーって言ったの!」 急に大声を出されて驚いた。ハルヒ、聞き取れなかったのは悪かったが、何もそんなに怒らなくても。 「いいから早く次!」 あー、この場合キなのかイなのかどっちなんだ? 「あーもう!バカキョン!飽きた!寝る!」 いや、まだ夕方の5時なんですけど・・・・・・ キョンとハルヒの入院生活保守 *** 本当に5時から寝てしまったハルヒは案の定夜中に眠れないとか言い始めた。 そして結局またしりとりをやっているのである。もう就寝時間は過ぎてるし寝たいんだが・・・・・・ 「タンス」「スイカ」「傘」「酒」 「け」か・・・・・・うーんなんだろうな。眠いから頭がちゃんと働いていないな。 「・・・・・・そうだなハルヒ、『結婚しよう』でどうだ。」 「え?ちょっちょっとキョン、いきなりなに言うのよ!」 「本気だぞ?」 「・・・・・・」 「ほらしりとりの続きだ。『う』からな。」 「・・・・・・『うん』・・・・・・」 「『ん』が付いたぞ。俺の勝ちだ。言ったもん勝ちってとこだな」 「・・・・・・負けたわよ。キョンの優しさにね」 ・・・・・・毛糸。ほら『と』だハルヒ。・・・・・・ハルヒ? 見ると、さっきまで眠れん暇だと騒いでいた団長様がすやすやと寝息を立てているではないか。 しかもどんな夢を見ているのか知らんが、ニヤニヤと笑いつつ涙を流して寝るという曲芸を披露している。 まったく、わがままなお姫様だこと。 おやすみ、ハルヒ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** さっきからハルヒのベッドから聞こえてくるカチャカチャという音は、さっき古泉が持ってきた ルービックキューブの音である。確かに暇つぶしには丁度いいだろう。他人に迷惑をかけないしな。 たまには褒めてやろうじゃないか。グッジョブ古泉。 ・・・・・・まさか1時間やって1面もできないとは思わなかったが。 こりゃ相当イライラしてるな。古泉も計算外だっただろう。・・・・・・閉鎖空間が発生してないといいが。 しょうがない。実はルービックキューブを40秒で6面完成させられる俺が助け舟を出してやろう。 どうやら1面のうち8つは揃っているようだ。こうなりゃ後は簡単だな。 ハルヒ、まずはその右の面を奥に回すんだ。 「・・・・・・」 お、回した。今日はやけに素直だな。じゃあ次は前後の真ん中の奴を右に回す。 で、さっきどかした奴をそこに入れて、あとは戻せば 「できたー!!!!! キョン、ありがと!」 今一瞬ドキッとしたのはハルヒの反応が思ったのと違ったからだぞ。 間違ってもその100Wの笑顔にときめいたわけじゃないからな。 「・・・・・・ねえ、キョンってもしかしてこれ得意?」 ああ、実は得意なんだなこれが。 「・・・・・・だったらもっと早く教えてくれたっていいじゃない・・・・・・」 すまんな。また詰まったら言ってくれよ。 「今日はこれはもういいわ。なんかおもしろいことない?」 やれやれ、結局俺が話し相手になるのか。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 次の日、どうにか片手でルービックキューブができないだろうかと思っていると谷口がやってきた。 来なくていいのに。 「お前せっかく人が心配して来てやったというのにそれはないだろ」 冗談だ冗談。 しばらく3人で適当に世間話をした後、谷口は俺に耳打ちしてきた。 「ところでお前アッチのほうはどうなってる?」 アッチ? 「そろそろ溜まってきた頃じゃねえか?」 溜まる?ああストレスか。 別に溜まってはいない。ハルヒが相手してくれるしな。 「・・・・・・お前、今何と言った?」 いやだからハルヒが相手してくれてるから問題ない、と。 「お前らいつの間にそこまで・・・・・・しかも病院で・・・・・・ナントカ病棟みたいな名前のゲームのやりすぎじゃねえのか?」 何のことだ。 「ちょっと涼宮にも話聞くわ・・・・・・」 と、谷口は向こうのベッドに近づいた。なにやらボソボソと話しているのが聞こえる。 「はあ!?アンタバカじゃないの!?」 「あっちょっと痛い痛いちょっやめルービックキューブは痛いってやめろって角は危ないって」 ガンガンという音が生々しい。 「ちょっとバカキョン!谷口に何喋ったのよ!」 そもそも俺はたいしたことは話していない。谷口はどんな勘違いをしたんだ? ハルヒは顔真っ赤だしさ。 谷口がこぶだらけになって帰ったあと、俺はトマトのように真っ赤になって怒っているハルヒを眺めつつ、 無残にもバラバラになってしまったルービックキューブをどうやって修復しようかと考えていた。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「どうもこんにちは。元気にしてるかな」 今日はなんかどっかで見たような気がする男がノートパソコンを抱えて来た。 「アンタ誰だっけ?どっかで見たことあるんだけど」 「コンピ研の新部長になった者でして」 ああ、どうりで見たことあるわけだ。なんだかんだで関わりはあったからな。 「で、コンピ研があたしたちに何の用?」 「そ、そんな怒らないでくれよ。暇してるって言うからこれを持ってきてあげたんだ」 そう言うと、新部長殿は持っていたノートパソコンを一台ずつベッドの横の棚に置いた。 「長門さん直々に頼まれちゃこっちも断れなくて。あとこの病院無線LAN付いてるらしいね、珍しい」 「有希が?ふーん・・・・・・まあ、アンタもSOS団コンピ研支部のメンバーなんだからね。 これからも団長に気を遣うようにね」 こらハルヒ、また先輩に向かってそんな態度で・・・・・・いやなんかもう本当すいません。 「いや、いいんだよ。もう慣れたからね。でも本当に素直じゃないね、君の彼女」 場の空気が凍った。 「なななななんであたしがキョンなんかの彼女なのよ!!!」 「えってっきりそうだとばかり」 「この!オタク!オタク!」 「いやオタクは否定しないけど、痛っ痛いなんだこれ!?」 それはバラバラになったルービックキューブです。片付けるのは俺です。 「こここここはひとまずたいさーん」 最後まですいません。今度謝らせます。 ハルヒもそんな顔真っ赤にして怒らなくてもいいじゃないか。 「・・・・・・バカキョン」 何がだ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 今日は俺とハルヒが入院してから最初の土曜日である。自分がこんな状況にあるにも関わらず当たり前のように SOS団を招集するハルヒはどういう思考をしているのであろうか。たまにはメンバーを休ませるなり 自分も休んだりすればいいものを。 まあいいか。古泉と話したいこともあったしな。 「んーなにこれ?ウォーリーを探さないで?」 「あのキャラを探すゲームですか?やってみましょうよ」 とりあえず女子3人組をパソコンで遊ばせてる間に古泉とこっそり話すことにした。 「この状況では電話でも込み入ったことは話せませんしね。メールも危険ですし」 そうだな。さて本題だが、気になることが一つある。 「なんでしょう」 ハルヒの骨折は例の能力で治ったりしないのか? 「ああ、そのことですか。きっと彼女が望めばすぐにでも治ると思いますよ」 じゃあ何で治ってないんだ、おかしいだろう。 「理由は至極簡単なものですよ。つまり彼女はそれを望んでいないのです」 ・・・・・・もうハルヒの思考について考えるのをやめていいか?まったくついて行けん。 「いい加減にあなたにもわかっていただきたいものですね。ちなみに僕や機関のほとんどのメンバーの予想は あなたが退院すると同時に彼女も退院するというものですが、どうでしょう?」 いやどうでしょうと言われても。どこにその根拠があるのかわからん。 「まったく、あなたらs「っひゃああああああああああ!!!!!!」 突然のハルヒの悲鳴に驚きつつ女子3人組の方を見てみると、相当動揺している様子のハルヒと、 普段と変わらずポーカーフェイスの長門と、・・・・・・そんなハルヒを見て微笑んでいる朝比奈さんがいた。 「・・・・・・な、なによこれ・・・・・・」 「涼宮さんって思ったより怖がりなんですね。ふふふ」 ・・・・・・何があったんだろうか。 キョンとハルヒの入院生活保守with若干黒いみくる 「・・・・・・わたしだけセリフがなかったのでここで言う。『ウォーリーを探さないで』を見るのは危険。気をつけて」 *** 「ほら、これもおもしろそうですよー。見ましょうよー」 「いや、あのねみくるちゃん、そういうのはもういいから、ね?ギャーとか、ね?」 「じゃあ・・・・・・あ、この『信じようと、信じまいと―』っていうの面白そうですね」 「ねえ、なんかそれ怪しくない?ねえってば」 珍しくハルヒが朝比奈さんに主導権を握られている。なんだろう、日頃の復讐だろうか。 「これはちょっと・・・・・・反応に困りますね」 閉鎖空間が出なきゃいいがな。 朝比奈ミクルの復讐~Episode00はかなりの時間続き、その結果ここには相当やつれたハルヒがいる。 結局閉鎖空間が出てしまったらしい。・・・・・・今回は俺は関係ないよな? ちなみに正気に戻った朝比奈さんは謝ってそそくさと帰っていった。まあハルヒにもたまにはいい薬だろ。 その日の夜中のことである。 「ねえキョン、怖い話してあげよっか」 んー?もう俺は眠いんだが。まあ話したければ勝手に話せ。 その後ハルヒは朝比奈さんに無理矢理読ませられたと思われる数々の話を俺に聞かせた。 「どう、怖いでしょ?」 話し手が声震わせてどうする。あと俺はそういうのには耐性あるからまず効かないな。じゃ、俺は寝るぞ。 「えっ・・・・・・」 それともなんだ。まさか怖くて寝れないとかそんなんじゃないだろ? 「・・・・・・っ!そっそんなわけないでしょバカキョン!あたしも寝るから!別に構わなくてもいいからね!」 図星だったようだ。 キョンとハルヒの入院生活保守with若干黒いみくる 「・・・・・・『信じようと、信じまいと―』は怖い話が苦手な人には推奨しない。気をつけて」 *** 「すーすー」 そんなわかりやすい狸寝入りしなくても。ハルヒ、怖いなら別に無理しなくてもいいんだぞ? 返事が無い。ハルヒー、ハルヒさーん、ハールヒさーん、ハルハルー。 「・・・・・・」 ・・・・・・逃げろ!ベッドの下に刃物を持った男が! 「ふぇっ!?きゃっ!!」 飛び起きた反動でハルヒはベッドから落ちてしまった。やはりあの話も読んでたか。てかやりすぎたか。 「・・・・・・誰もいないじゃないのバカキョン・・・・・・いや嘘だってのはわかってた、わかってたのよ」 ハルヒは起き上がると俺をキッと睨んだ。いや暗いから見えないんだけどこうなんというか眼光を感じるんだ。 こりゃ相当怒ってるだろう。ハルヒを怒らせると後が怖いからな・・・・・・謝っておこうか。 ハルヒ、なんというかその、スマン。 「いい」 そんな無愛想な返事しないで・・・・・・えーとハルヒさん?あなたのベッドはこっちじゃなくてあっちですよ? 「べ、別にいいじゃない、あんたは黙って寝てりゃいいのよ」 そう言うとハルヒは俺のベッドに潜りこんできた。そのため俺は反射的にハルヒの分のスペースを空けるように 左に寄ってしまった。なんとまあ流されやすいことだろう。 狭いベッドに完全に二人が乗っかった状態になると、ハルヒは向こうの方を向いてしまった。本当にハルヒの行動は よくわからんが、今俺の右手をハルヒが左手でしっかりと握っているため、もう逃げられないということだけはわかる。 俺のベッドに入ってからすぐに、ハルヒは狸寝入りではない寝息を立て始めた。 逆にこの状況だと俺が寝るに寝られないわけだが・・・・・・やれやれ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 結局一睡もできなかった。 急に寝返り打って顔が近いとか寝息が顔にかかるとか抱きついてくるとか寝息がかかるとか顔が近いとかかかるとか とにかくそんな状況に置かれて冷静に寝られるほど俺は人間(男?)ができていなかったということだ。 さて朝6時。そろそろハルヒを戻さないと看護士さんが来ていろいろアレなことになるから起こそう、うん。 ハールーヒー起きろー。 「・・・・・・うん・・・・・・うーん・・・あ、おはよ」 やあおはよう。すがすがしい朝だね。俺は睡眠不足で倒れそうだよ。 「ねえねえ、んー」 何だそれは。 「おはようのキス」 夢の相手が誰かは知らんが目を覚ませ。 俺はいつかの消失騒動の時のようにハルヒの頬をつねってやった。 「むぐ・・・・・・う・・・・・・え!? きゃっ!」 ようやく起きたか。ハルヒは一度ベッドから落ちそうになったがなんとか立て直した。 「えーっと・・・・・・えー・・・あー・・・・・・なんで・・・・・・キョンの・・・・・・?」 混乱してるようだ。いや昨日お前から入ってきたんだろうが。 「嘘!?・・・・・・あー・・・・・・あー!」 思い出したか。あとそれからな、夢の中でもおはようのキスはないだろ。 「え!?え!?あたしなんか言ってた!?」 そりゃあもうな、どんな夢かは知らんが現実では俺にねだってたぞ。 「うああああああああバカバカあたしのバカ」 ハルヒは顔を真っ赤にして騒ぎながら自分のベッドに飛び込んでいった。片足折ってるのになんという機動力だろう。 とりあえず何とかハルヒを引き離すことには成功したから俺は一眠りしよう。おやすみ。 キョンとハルヒの入院生活保守 *** そして昼の12時頃俺は起きた。 「あ、キョン起きた?ところで何でそんなに寝てるの?」 いやお前が昨日俺のベッドに入ってきたからだよ。 「・・・・・・ふふーん、あたしがそばにいるからドキドキしちゃって眠れなかったんだ?」 認めたくはないがそういうことになるんじゃなかろうか。 「結構ウブなのね」 うるせーやい。てかお前も話してて顔赤くなってるじゃねえか。 「べ、別に赤くなってなんかないわよ!」 おはようのキス。 「うああああああああ」 キョンとハルヒの入院生活保守 *** 「ところでキョンってこの前のテストどんなだったっけ?」 急に俺の古傷を掘り返すようなこと言うな。特に話すことはない。 「戦わなきゃ現実と」 ・・・・・・わかったよ。8教科で*72点だ。(本人の名誉のため一部を伏せています) 「・・・・・・あんたどこの大学入るつもりなのよ・・・・・・しかもこの大切な時期なのに学校休んでるし」 休んでるのはお前が原因だろうが。 「・・・・・・ごめん・・・」 しまった、と思った時にはもう遅く、この病室内にはなんとも居心地の悪い空気が充満していた。 なんとかこの状況を打破する画期的な一言を考えようとするも、慣れてないからか全く思いつかない。 こんなとき古泉がいれば何とかしてくれるんだよな。初めてあいつを頼りたいと思ったよ。 しかし先に口を開いたのはハルヒだった。 「・・・・・・じゃあさ、きっとあたしの方が早く退院するから、そのあと毎日来てキョンに勉強教えてあげる」 え? いやいいよ、大変だろ? 「成績上げないととどこの大学にも入れないで落ちぶれちゃうわ。だからあたしが伸ばしてあげる。決まりね!」 聞いてないようだ。しかし空気は戻ったのでまあいいか。古泉がハルヒと俺の退院は同時とか言ってたしな。 次の日にはハルヒの右足は完治し、その日のうちにハルヒは退院した。なんてこったい。 キョンとハルヒの入院生活保守(ハルヒの入院は終わり) *** 今日はハルヒが学校に行ったのだろう。古泉からすぐに電話が掛かってきた。 『何かあったんですか? 機関はまるで大騒ぎですよ』 いや、一応心当たりはあるんだが・・・・・・ 『教えてください。授業が始まるまでに』 えーと、一昨日ハルヒが俺が成績悪いから退院したら勉強教えてあげるとか言ってたんだ。 『なるほど。ありがとうございます。全て納得しました』 え?納得できたのか? 『やはりあなたはわかっていないようですね。すいません時間がないので。ではまた』 切れた。・・・・・・なんだってんだもう。 キョンの入院生活保守 *** その日の夕方ハルヒは律儀にもやってきた。来なくていいのに・・・・・・とは言わないが。 「毎日来るって言ったでしょ」 そこまで俺の成績悪いことが気に入らないか? 「気に入らないっていうか・・・・・・あんたの将来を考えてあげてるのよ」 将来って、例えば? 「だから・・・・・・成績悪いとろくな大学入れないでしょ? そしたらまともな会社に就職できないじゃない? そしたら稼ぎが少なくなってあたしが――あたしじゃない、あんたの将来の嫁さんが大変じゃない」 嫁?まさか俺に嫁ぎたいなんて思ってる奴いないだろうよ。 「・・・・・・きっといるわよ、あんたを好きになる人」 そうかい、じゃあ現れるまで気長に待つとしますか。 「・・・・・・バカキョン」 はいはいバカですよー平均点*4点ですよー。 「そういうのじゃなくてね・・・・・・」 バカキョンの入院生活とハルヒのお見舞い保守 *** 「どうせあんたは忘れてるだろうから1年の内容から復習ね」 へいへい。・・・・・・えーと、シン60度「サイン」サイン60度が・・・・・・えー・・・・・・ 「・・・・・・わかんないの?」 はい。 「お母様、ハルヒは課せられた使命を遂げることができません、お許しくださいませ」 なんかほんとごめん。 その後のハルヒのスパルタ指導により俺はなんとか三角比を思い出した。 「むしろこれで*4点も取れてたことが凄いわよ」 取れてないぞ。現代文で稼いでたから数学はIIとB合わせて2*点だったな。 「・・・・・・あたしが養うしかないのかなぁ・・・・・・」 バカキョン(学力的な意味で)の入院生活とハルヒの熱血指導保守 *** さらに2時間にも及ぶマンツーマン(男女間でもこれでいいのか?)レッスンにより、何とか中学卒業レベルの 数学を思い出すことができた。これだけ頭使ったのは受験シーズン以来だぜ。 ・・・・・・ってハルヒ、何やってるんだ。 「ギプスに落書きしてんの。定番でしょ」 見ると、よくわからん絵やらSOS団エンブレムやら「私はバカです」やら「平均点*4点」やら書いてある。やめろ。 「足の裏にも書いてあげる。見えないでしょ?」 見えないな。てかやめろ。 「よしっと。じゃ、あたし帰るからね。明日も来るから覚悟しときなさい!」 完全に聞く耳持たずモードに突入した団長様は嵐が過ぎ去るかのように去っていった。やれやれ。 なぜかその後谷口が来た。来なくていいのに。 「その性格何とかしろよお前」 悪い。昔からなんだ。 「とにかく俺はお前らがあれだけ一緒にいたのに少しも進展してなかったのが気になって・・・・・・」 谷口はさっきハルヒが何かを描いたであろう足の裏を見て固まった。 「・・・・・・なんだよしっかり進んでるじゃねえか。あー心配して損したぜ。お前ももう少し鈍感じゃなければな」 何の話だ。お前よりは鈍感じゃないだろう。 「いや、確実にお前の方が鈍感だ。神に誓ってな。俺は気付いてるがお前は気付いてないのが立派な証拠だ」 そう言うとその絵を携帯で撮って帰っていった。あ、病院なのに携帯オフにしてないじゃんあいつ。 ・・・・・・気付く気付かないって、一体何の話だ? そのあと看護士さんにもやたらニコニコされるし、ハルヒは一体何を描いたんだろう。 キョンの入院生活とハルヒの見舞いwith谷口保守 *** 「おはよう、キョンの様子どうだった?」 「どうだったも何も、これ見てくれよ。きっと涼宮が描いたんだ」 「・・・・・・確実に進展してるんじゃない?これ」 「そう思うだろ?でもキョンの野郎が鈍すぎて結局何も進んでないんだよな」 「涼宮さんもかわいそうだね」 「なーに、そのうち涼宮が折れるさ」 「そしたらくっつくね」 「ああああああああうぜええええええええええええ」 「落ち着きなよ谷口にもいつか春は来るよ正直同意見だけど」 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守~谷口と国木田編~ *** 「ハルヒちゃん、今日もキョンくんのお見舞い?」 「あ、はい、あのバカキョンに勉強教えてやらないといけなくて」 「女の勘だけど、きっとあの子にはハッキリ言ってあげないとわかってくれないと思うのよ。 遠まわしに言っても伝わらないというか」 「え?」 「こんなにかわいいんだからもっと自信を持って言っちゃいなさい。はい、ファイト!」 「あっ、えっ?は、はい」 ハルヒは病室に入ってくるなり、足の裏の絵?を黒く塗りつぶし始めた。 「そうよねー、看護婦さんは普通に見れるわよねー、不覚だったわ」 何かぶつぶつ言っている。確かに見てたぞ。そのあと俺の顔を見てニコニコしてたが。あと今は看護士な。 なぜか学校でハルヒにボコボコにされる谷口、という情景が浮かんできたので谷口のことは言わないでおこう。 それくらい人を労わる気持ちは俺にもあるのさ。前回も俺の勘違い?のせいでボコボコだったしな。 「自信を持って・・・・・・自信・・・・・・」 まだ何か言っている。気色悪いぞ。 「キョン」 と思っていた矢先、ハルヒは意を決したように俺の方を向いた。 何だ。 「んー・・・・・・うー・・・・・・」 だんだん顔が赤くなってきた。熱でもあるのだろうか。 「ああダメ!言えない!言えないって!」 何が言えないのかは知らんがそこはもうお前のベッドじゃないんだから暴れるのはよしなさい。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「じゃあ今日は古典ね。予習してた?」 全然。 「ペナルティで一発ビンタね」 聞いてないぞ。 ハルヒが腕を振り上げたので俺は思わず目を閉じた。 叩かれると思ったがいつまで経っても打撃がこない。目を開けてみると顔の横数cmのところで手が止まっている。 「・・・・・・手が動かない」 はい? 「叩けない」 ・・・・・・お前らしくないぞ?コンピ研の部長にドロップキック食らわしたお前はどこ行った? 「っ・・・・・・もういいわ!古典古典!」 何だったんだ。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「そうね、この小テストで高得点出したらご褒美あげるとかしたらあんたもやる気出るかしらね」 出るかもな。 「えーと・・・・・・じゃあ8割以上であたしがほっぺにキ、キスしてあげるとか!」 じゃあそれで頼む。 「えっ!?ちょっと・・・・・・いいの?じゃなくて、突っ込みなさいよ!」 あいにく今は突っ込む気力が無い。というか自分の冗談で自分で照れるな。 「いやだってまさか肯定されるなんて・・・・・・」 それにどうせ8割なんて取れるわけないんだから変わらん。 「・・・・・・じゃあ3割以下で罰ゲームでキス・・・・・・」 うん、まあそれならほぼ確実だろうが・・・・・・なんかお前にメリットあるか? 「・・・いやだから突っ込みなさいよ・・・・・・」 だから照れるなら言うなって。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「涼宮!キョンが大変だ!」 「えっ!?本当!?」 「今電話が掛かってきて・・・・・・容態が急変してちゅうちゅ、集中治療室に運び込まれたって」 「・・・・・・あたし行ってくる!」 「え?あ、ちょっと」 「どうしよう国木田、涼宮の奴冗談本気にして授業ほっぽらかして行っちゃったぜ」 「流石に言って良い冗談と悪い冗談があると思うよ。噛んでたし」 「キョンにメールしとかないとな・・・・・・」 キョンの入院生活とハルヒの見舞いと谷口氏ね保守 *** ん?谷口からメールだ。 『今から行く奴に「全部冗談だった」と伝えてくれ(^o^)/~~ 後は頼んだm(_ _)m 俺の命はお前に懸かっている(^ー゚)b』 顔文字がうざい。 「キョン!!!・・・・・・え?え?」 うわビックリした。ってハルヒ、授業はどうしたんだ。 「え・・・・・・だって容態が・・・集中治療室・・・・・・って谷口が・・・」 ああ、そういうことか。とりあえずこのメールを見てくれ。顔文字うざいが。 「・・・・・・冗談・・・・・・はあぁ」 するとハルヒは俺のベッドに力が抜けたようにもたれてしまった。 「わざわざこの寒い中この格好のまま走ってきたのに・・・・・・授業もサボっちゃったし」 そりゃご苦労さんだったな。でも俺を心配してくれてたってことだろ?ありがとうな。 「・・・・・・でも逆に嘘で良かったわ。本当にキョンが死にかけてたら大変だし」 そうそう、お前はそういう前向きな考えが似合ってるぞ。ところで授業はいいのか? 「・・・もう学校に帰るわ。あたしが大学行けなくなったら本末転倒だしね。谷口もボコボコにしてやらないと」 あ、ごめん谷口。お前の命守れそうにないや。自業自得だけど。 「・・・・・・キョンは急にいなくなったりしないわよね」 帰り際にこんなことをを訊いてきた。 まあ、そう簡単にぽっくり逝ったりはしないだろうよ。俺みたいな幸の薄い人間は長生きするものさ。 「・・・・・・そうよね、ありがと。また学校が終わったら来るわ」 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「こぉんのバカ!!!」 「うおわっ!!」 「あんたのせいで授業サボっちゃったじゃないの!!」 「いやだっていくらキョンが重体でも授業を抜けるのはないだろうよ」 榊「いや、あの状況は行くだろ」 阪中「行くのね」 由良「行きますよね」 山根「行くだろ・・・・・・常識的に考えて」 ~中略~ 岡部「あれは行かない方がおかしい」 「29対1で谷口の負けだね」 「というわけで責任持ってボコボコになりなさい」 「アッー!」 自業自得谷口保守 *** さて、と。今日は物理だったか?少しは予習しておかないと。 ・・・・・・点数が悪かったときのハルヒのこれ以上ないくらいの悲しそうな顔を見たくないしな。 なぜ俺のためにそんな悲しむのかはわからんが。 「キョン!ちゃんと予習して・・・・・・してる・・・・・・?」 なんだそのUFOを見るような目は。俺が勉強してるのがそんなに珍しいか。 「も、もちろんいいことよ。やる気出してくれたみたいでうれしいわ!じゃ、小テストね」 「予習しても結局これなのね」 お許しください団長様。 「こんなんでT大行けると思ってるの?」 いや行けませ・・・・・・T大?T大と言ったか?俺にそんな大学行けるわけが・・・・・・ 「あたしが行くんだからあんたも行くのよ!そうじゃなきゃSOS団がバラバラになっちゃうじゃない!」 お前T大行く気だったのか。いやそれでも俺は無理だし朝比奈さんは・・・・・・ 「あら、みくるちゃんもT大行くのよ。鶴屋さんと一緒に」 マジですか。 「マジよ」 そういや最近来ないことが多かったような・・・・・・長門はまあいいとしてやはり古泉も? 「そうよ」 あれ?もしかしてSOS団って勤勉クラブ? キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** そういや明日には腕のギプス取れるってさ。 「ほんと!?良かったじゃない!」 この調子で行けばもうじき退院できるだろ。 「・・・・・・ごめんねキョン、あたしのせいで・・・・・・」 だからそれはもう十分謝ってもらったからいいって。それよりも俺は元気なハルヒが見たい。 「え?」 おっと、要らないことまで口走ってしまった。気にするな、お前はいつでも十分輝いてるからそれでいい。 「え?え?」 あれ?何で俺こんなことを? 今日のテンションはなんかおかしいな。何だろう、T大のショックか? 「わかったわ!これからもずっと責任持って輝いてあげるから感謝しなさい!」 まあ、ハルヒの機嫌がいいみたいだし何でもいいか。 キョンの入院生活もそろそろ終わり保守(ぶっちゃけ骨折がどのくらいで治るのかわからない) *** 「・・・・・・」 久々にハルヒはルービックキューブを回している。とは言っても完成させるためではなく、ひたすら崩すためだ。 俺の両手が自由になったから実力を見せろ、ということらしい。 いくらやっても大して違いは無いのに、ハルヒはこれでもかと言うくらい崩している。まあ、満足するまでやればいいさ。 「・・・・・・もういいかしらね」 はいはいっと。 「5分でできたら褒めてあげるわ」 そりゃまた結構な余裕があるな。はいスタート。 はい完成。今日は調子良かった。 「はやっ! 32秒って・・・・・・」 世界レベルだと10秒台とかザラだぞ。 「1面に苦労してたあたしって一体・・・・・・」 それより褒めてくれないのか? 「え?あー、うん、えーっとね・・・・・・」 どうやら5分でできるわけがないと思っていたらしく、褒め言葉を賢明に探しているようだ。 「・・・・・・うーん、惚れそうになった?・・・・・・違う違う違う!」 勝手に一人突っ込みを始めた。ルービックキューブで惚れられてもねえ。 「ま、まああんたにしては上出来じゃない!?」 そんなもんだろうと思ったよ。 キョンの入院生活とハルヒの見舞い保守 *** 「・・・・・・へっくし!・・・・・・うー」 おいどうした?風邪か? 「昨日のアレで体冷しちゃって・・・・・・スカートがこんな短いのが悪いのよ」 最近寒いもんな。しかし女子は大変だよな、こんな寒いのにスカート穿かなくちゃいけないし。 「女は辛いのよ。というわけで布団を貸しなさい。足が冷えてるの」 嫌だ。俺だって寒い。 「じゃあこ、こっちから行くわよ」 そう言うとハルヒはいつかのように勝手にベッドに潜りこんできた。またか・・・・・・ その瞬間である。 「キョンくーん、おみまいだよー!あっハルにゃん!」 「あ」 あ。 「い、妹ちゃん!これはね?違うの、だからね?寒かっただけなのよ!わかる?寒くてね」 「あたしもはいるー!」 言うまでも無く俺は妹のボディプレスを食らった。 現在俺のベッドは3人がひしめくというなんとも定員オーバーな状況にある。 実際妹だけで良かった。親も来てたら何言われるかわからないしな。 「ねえハルにゃんはリンゴのかわむけるー?」 「もちろんよ。女ならできなくちゃダメよ」 「やってやってー」 ハルヒの皮むきは相当上手かった。きっといい嫁さんになれるよ。 「なんとなく素直に喜べないのよね」 なんでだよ。 キョンの入院生活とハルヒと妹の見舞い保守 *** そんなこんなありつつもようやく足のギプスを外して退院できる日がやってきた。 それにしてもあの電動ノコギリは怖いな。いつかテレビで新型のカッターが開発されたとか見たが・・・・・・ 足の裏の絵の解読を試みるもしっかりと塗りつぶされていて無理だった。永遠の謎となったか。 「キョン!退院おめでと!」 お、迎えにきてくれたのか。ありがとな。 「さ、行くわよ」 どこにだ。 「学校よ、学校。今日もSOS団の活動はあるのよ!」 まさかこの病み上がりの身体であの坂を登れと? 「いいから文句言わずについてきなさい!」 やれやれ。 キョンの退院とハルヒのお迎え保守 *** 入院で衰えた足で坂を登るのは流石に堪えたが、なんとか部室まで這ってたどり着いた。 「はい、入りなさい!」 勧められるがままに俺はドアを開けた。そこで俺が見たものとは! 「「「「「退院おめでとー!!」」」」」 華やかに装飾された部室と団員三人、名誉顧問になぜか俺の妹、そしてクラッカー。 これは・・・・・・? 「はい!主役も来たことだし、『ハルにゃんキョンくん退院記念”ラブラブ”パーティー』を始めるよっ!」 「えっ!?ちょっと鶴屋さん、あたしラブラブなんて入れてないわよ!?」 「いーのいーの気にしない!ちょっとの遊び心は必要にょろよ?」 どうやら俺たちのためにパーティーを開いてくれたらしい。なんて皆優しいんだろう。 手書きの看板を良く見るとパーティーの前に赤ペンで小さくラブラブと書いてある。きっと鶴屋さんだろうな。 キョンとハルヒの退院パーティー保守 *** 「じゃあ僭越ながらあたしが乾杯の音頭を取らせていただくにょろ! ハルにゃんキョンくん、お見舞いにいけなくてホントごめんね!受験近くてちょっと忙しくてさー」 なんてったってT大ですもんね。 「ありゃ?知ってたのかい?そうなんだよねえ。しかもみくるもだよ?イメージと違うよね! おっと話がずれちゃったにょろ。ま、あたしが行けなくても毎日二人でお楽しみだったみたいだったからねー。 で、どこまで行っちゃったのかな?」 「つ、鶴屋さん、あたしとキョンは別になにも・・・・・・」 「おんやー?そいつはもったいないねえ。若い男女が一つの部屋にしかもベッドまで用意されてたってのに。 おっとまた脱線。まあとにかく、ハルにゃんとキョンくんの全快を祝いまして、かんぱーい!!」 「「「「「「かんぱーい!!」」」」」」 おいどうしたハルヒ、酒も入ってないのに真っ赤だぞ。 「う、うるさい!気にしなくていいのよ!」 キョンとハルヒの退院パーティー保守 *** 「涼宮さん、ちょっといいですか?」 「なに?みくるちゃん」 「素直に好きと 言えない君も 勇気を出して Hey Attack」 「・・・・・・それ・・・・・・」 「これ、涼宮さんが書いた詞じゃないですか」 「そうだけど・・・・・・」 「勇気を出してアタックすればきっとキョンくんだって振り向いてくれますよ!ファイトです!」 「・・・・・・ありがとうみくるちゃん。あたし頑張る」 パーティーの片隅での出来事保守 *** そんなこんなで(今日使うの二回目か?)パーティーもお開きの時間となった。 受験生もいるしハルヒにしては早めの時間設定だったな。 「みんなお疲れ!今日はありがとう。後片付けはあたしがするからみんな帰っていいわ」 「いや、僕も手伝いますよ?」 「あたしも手伝います」 「わたしも」 「勉強なんて1日サボっても変わんないにょろよ」 ちなみに妹は寝た。いや、流石にお前だけってのは・・・・・・ 「何言ってるの?キョンもやるに決まってるじゃない。雑用係が休んでどうするのよ」 結局そういうことですか。まあ皆も手伝ってくれるみたいだし・・・・・・ 「それならば、僕は帰らせていただきますね」 「あたしも帰ります。あ、妹さんはあたしが送ってあげますね」 「帰る」 「そういうことなら帰らせてもらうよっ!」 あれ?さっきと話が違ってません?そういうことならって・・・・・・ キョンとハルヒのパーティー後保守 *** やっぱりあの量を二人で片付けるのは辛いものがあった。 「でもこういうのって 仕事したっ! って感じにならない?」 まあな、たまにはこういうのもいいかもしれんな。 って雨降ってるじゃねえか。傘持ってきてないぞ? 「あたしのが一本あるからそれでいいじゃない」 あのときみたいにか? 「うん・・・・・・ダメ?」 いやいいけどさ。お前はいいのか? 「べっ別に相合傘はカップルがやるものとかそんなんはどうでもいいのよ!意識するから恥ずかしいの!」 なんか話が飛躍したな。 キョンとハルヒのパーティー後保守 *** やることも終わったので俺たちは帰ることにした。 そして適当に雑談をしつつ部室棟の階段を下りた、その時だった。 「きゃっ!」 俺の隣りでハルヒはまたも足を滑らせた。このままいつぞやの悪夢が繰り返されるのだろうか。 結果として繰り返しはしなかった。なぜかって? 俺がハルヒをしっかりと抱きかかえていたからさ。 「キョン・・・・・・あ、ありがと・・・・・・」 お前にもうケガなんてさせねえよ。 と、上の気障なセリフを喋ったのは誰だ。俺か。俺なのか。またこの前みたいなテンションなのか俺は。 しょうがない、このテンションのまま最後までいっちまえ。 「え?ちょ、ちょっとキョン!な、なにするのよ!」 何って背中と膝裏を支えて抱きかかえてるだけだぜ?世間的にはお姫様抱っこと言うらしいが。 降ろしてほしいか? 「・・・・・・別にこのままでもいいけど・・・・・・」 ダイヤモンドは大事に運ばないとな。 「・・・・・・」 ありゃ、流石に今のはクサすぎたか? 「・・・・・・前から言おうと思ってた大事な話があるんだけどいい?」 ああ、いいぞ。聞いてやろうじゃないか。 そう返すとハルヒは俺の首に腕を回してきた。 「あたしね、ずっとキョンのことが・・・・・・」 二人は階段から落ちたが、そのおかげで―― 新たな階段を一段上ることができたのかもしれない。 キョンとハルヒの入院生活保守 fin
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1761.html
執事の森さん「本日は誠に申し訳ありませんでした。主人が一度小説みたいなことをやってみたいと申しましたので・・・・」 朝比奈「本当にひどいです!」 森さん「おわびと言っては何ですが、お土産をご用意致しました。」 ハルヒ「ありがと!」 朝比奈「すいませんわざわざ・・・・・」 古泉「僕にはないのですか?」 森さん「坊っちゃんには無し!」 ハルヒ「キョン、あんた何貰ったの?」 キョン「あ、綾波レイのプラグスーツだ・・・」 古泉「キョン君には似合わないもの貰ったね~」 キョン「こんなものを渡す方なんてどうかしてるのか?」 そういやこいつだけお土産もらえなかったんだな・・・、 キョン「ほれ、やるよ」 ハルヒ「えっ!いいの?」 キョン「ああ、古泉には似合わないしな、」 古泉「わかってるじゃないですか、僕なんで女に産まれなかったのかって思う時がありますよ」 その時、俺は知らなかった。 いつまでも続くと思っていたこの日々が 突然、終わりを告げる事を キョン「あ、古泉、」 古泉?「はい、そうですが・・・、あなたは?」 キョン「何言ってるんだ?いつもキョン君って言ってるじゃないか」 古泉?「キョン?僕の知り合いにそんな変な名前の人はいません。」 キョン「おまえどうしちまったんだ?」 古泉?「肩を掴まないでください・・・」 古泉一樹「一喜(かずき)~お前歩くの速いよ~」 キョン「あれ?古泉が二人!?」 古泉一樹「キョン君!?」 古泉?「兄さん!この人知り合いなの?」 キョン「え!え?え~」 古泉一樹「僕には双子の弟がいるんですよ、言いませんでしたか?」 キョン「なんだってー」 古泉「あれ、今日は朝比奈さんだけですか?」 朝比奈「はい、あ、お茶飲みますか?」 古泉「お願いします。ところでその服は?」 朝比奈「キョン君がハルヒさんにあげた服です。似合ってますか?」 古泉「ええ・・・・・・」 古泉弟「痛い!」 キョン「あ、古泉弟だ。 おーい、どうしたんだ?」 古泉弟「ちょっと転んでしまいまして・・・」 キョン「あーあ、血がでてるぞ、ほれ」 古泉弟(ドキン)「あ、ありがとう・・・ございます・・・」 キョン「気をつけろよー」 古泉弟「は、はい・・・」 翌日、クラスが騒がしかった キョン「谷口、なんかあったのか?」 谷口「キョン・・・・・・、落ち着いて聞いてくれ・・・・」 谷口「朝比奈先輩が、殺された」 何を言ってるんだこいつは、4月馬鹿にはまだはやいぞ しかもそんな不謹慎なネタだなんて、谷口もたいしたことな・・・・ まて、このクラスの騒ぎ用、 まさかな 何故か今日、全校集会があった。 テーマは『朝比奈みくる』 まさか、そんな、全校生徒で4月馬鹿か? 気付くと俺は泣いていた。 キョン「長門、朝比奈さんを殺したのは誰だ?わかってるんだろ!?」 長門「・・・・・・」 何か小さな声が聞こえた、わかっていないのか? 長門「・・・・・こいずみ・・・・いつき・・・・・・・」 ???????????? キョン「長門、もう一度言ってくれないか?」 長門「・・・古泉一樹」 は?なんでそいつの名前がでてくるんだ? 長門まで4月馬鹿か? 長門「冗談ではない、真実」 キョン「なんだってーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」 キョン「あの野郎!あの野郎!ぶち殺してやる!」 俺は、古泉の家に行った。 キョン「古泉!古泉!古泉!」 古泉「待ってたよ、上がって」 何故か一瞬、殺意が消えた。 キョン「短刀直入に言う、朝比奈さんを殺したのはお前だな、」 古泉「ええ・・・・・・」 キョン「どうしてだ!なんで!そんなことを!」 古泉「あの時、ハルヒにプラグスーツをあげたでしょう。 僕は、欲しかったんだよ、 でもキョン君はハルヒにわたした、 しかも朝比奈が着ていた。許せないかった。」 キョン「そんな、簡単なことで・・・」 古泉「通報するのは後、ちょっと付いてきてくれないか?」 何故だろう、目の前にいるのは殺人者なのに、 ホイホイ付いていっていいのか? 地下だった、暗い、 そういや声が聞こえるな・・・・ 古泉弟「キョン君!」 キョン「古泉弟!何故牢屋の中に!?」 古泉一樹「あいつ、部屋でキョン君でオナニーしてたんだよ ああなって当然でしょ?」 キョン「古泉・・・・・・!」 牢屋に目を向けていたせいか背後の古泉のCQCに気付かな・・・・・・かっ・・・・・・ 気がつくと荷台に乗せられていた。 古泉は何故か裸だ・・・ キョン「古泉、何をする気だ」 古泉「ふふふ、何って、アナルギアですよ アナルに僕の股間のメタルギアを突っ込むんです」 キョン「や!やめろ!アナルだけは!」 古泉「ふふふ、いきますよ・・・」 こんなことで・・・くやしいっ・・・・・・ と今わの際に馬鹿な事考えていた、 あーあ、俺の人生も終わりか・・・・・・ と思っていた・・・が・・・ 外へ通じる扉から地なりがする、なんだ? 古泉「あーあ、時間切れですかね。よかったですね、あなたのアナルバージンは守られましたよ。 きっと長門あたりが警察でも呼んだのでしょう。自分が来たらいいのに・・・ あ、僕は逃げます。でも、今後もし僕に会っても、話しかけないでください。 それは、僕の屍にとりついた、阿部高和なんですから・・・・・・」 一方的にはなされた後、さっきの眠気が襲い、俺の・・意識は・・・・・・ そうか、古泉の豹変は俺のせいだったんだな、 古泉、お前の為にプラグスーツを買ってやったんだぜ お前のことだから照れて『いりません』とか言うんだろうけど 最後はきっと真っ赤になって受け取ってくれる 俺、恐かったんだ あの時、プラグスーツを渡したら、みんなからゲイだホモだって言われて、 いままでどうりに学校生活ができなくなるんじゃないかって・・・・・・ でも、今は違う ちゃんと、古泉に・・・・・・ だからっ! 窓から音がする。なんだ? 俺は下を覗いてみた キョン「古泉!!!」 古泉「へへへ・・・・・・」 キョン「うろついて大丈夫なのかよ」 古泉「ふふふ、」 古泉「いままで・・・・・ずっと我慢してきたけど・・・もう・・・ダメ・・・」 キョン「おい!どうしたんだよ!お」 古泉「おちんぽミルクでちゃいましゅううううう!!!!!」 ドピュ キョン「・・・・・・え?」 古泉「やった!やった! これで、僕の顔射したい人に、や――――っと出せたよぉ―――っ」 キョン「・・・・こい・・・ずみ・・・」 病院内 長門「・・・・・・」 ハルヒ「あ、雷電、」 雷電「すいませんね~今はちょっと取り込んでまして~」 ハルヒ「まぁいいわ、後で来るからね」 キョン「・・・おう」 キョン「俺は男だ、だから、 801本なんか持ってくるな!」 雷電「なんだ、てっきりキョンはゲイかと思ってたんだが・・・・・・」 キョン「で、なんの用だ?」 雷電「ああ、君に聞きたい事があって・・・ キョン、本当に昨日古泉に顔射されたのか?」 キョン「ああ、間違いない。」 雷電「本当に?」 キョン「本当だ」 雷電「・・・・・実は、その時、古泉はハッテン場で死んでいたんだ」 キョン「!!!」 雷電「死亡推定時刻はキョンが古泉の家から介抱されて3時間ほど後」 キョン「じゃあ、あの時の古泉は・・・・・」 雷電「この事件、アナルが動き過ぎたってことかな」 何が?誰が?まったく解らないな、この事件、 長門に聞いてみるか・・・・・ 今一瞬、ベッドの下に茶色の髪の毛が見えたな 古泉「キョン君、迎エニ来タヨ」 俺は心の底から願った。 童貞卒業は、ハルヒか長門がいい、と。 古泉「あの時アナルバージン残しておいてあげたでしょ―――――― 今度はダメ―――――あはははははははははははははははははははははははははは」 ひぐらしがなかないハルヒ 穴泣かし編 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4390.html
最近キョンの様子がおかしい。 何だろう、私に隠しごとがあるような。特に理由があるわけではないけど、なんとなくそんな気がするの。こういう時は直接聞くに限る。 「ねえ、キョン。私に隠しごとしているでしょ」 キョンは一ノ谷から駆け下りる源義経を見た平家のように動揺している。 「いきなり何を言い出すんだ。別に何もねえよ。」 「正直に言いなさい」 「母が次の中間テストで成績が悪かったら予備校に行けってうるさくてな。成績が悪かったらどうしようかと思い、憂鬱なのさ。」 「ふうん。あんたは勉強の仕方が効率悪いのよ。そう言えば来週数学の小テストがあったわね。今度、私が指導してあげるわ。」 「ああ、頼む。」 「ところでキョン。最近どう。元気にしてるの。」 どうもこうも、授業中も放課後もいっつもおまえの前にいるだろ。俺が元気かどうかなんて言わんでもわかるだろ」 「私の知らないところで変わった経験をしたとか、宇宙人が歩いていたとかそういうのはないわけ。普段、しっかり周りに目を配っていたら1つや2つ見つけられるはずよ。あんたそれでもSOS団の団員なの」 「あのな。ハルヒ。そんな体験がごろごろ転がっているわけないだろ。」 私はキョンが一瞬動揺したのを見逃さなかった。 「おまえこそ変な体験をしたことはあるのかよ」 「うーん。そうね。」 心当たりがないわけではない。私だって1つぐらい奇妙な体験をしたことがある。でも、言わなかった。 「まあ、いいわ。不思議な出来事は簡単には見つけられないの。ありふれた日常でもじっくり目を懲らすと転がっていたりするものよ。常に気を引き締めて周りに気を配りなさい。わかったわね。」 キョンは「やれやれ」とでも言いたそうな顔をしていた。 不思議な体験ねえ。もうあれから4年も経つのか。 放課後、いつも通り部室に行く。 部室に入ると、キョンと有希が何かを話していた。キョンは私が部屋に入ってきた途端、話をやめ椅子に座り、有希は私を一瞥してから、本を開ける。何を話し ていたんだろう。みくるちゃんはメイド姿でお茶くみをしている。私は机に座りパソコンに電源をつける。そしてお茶を飲み、メールとホームページのカウン ターをチェックしてからネットサーフィンをする。宇宙人も超能力者もいない、不思議で奇怪な体験も存在しない。SOS団を結成してもうすぐ1年。毎日繰り返されるSOS団的日常。けどそれはそれで楽しかった。そういえば最近のキョンの様子がなにか変なのよね。ここ数日ずっと感じる違和感。予備校の話は本当なんだろうけど、他にも何か隠しているわね。キョンが私に隠さなければいけないことってなんだろう。 と考えていると古泉君が部室に入ってきた。 「どうも、遅れてすみません。」 そうして、団員全員が揃った。 揃ったから何もする訳でもないのだが。私は今日明日に適当な記念日がないかネットで調べたりしていたが「日本気象協会創立記念日」とか「長良川鵜飼開きの 日」とかばっかりでイベントができそうな記念日も見つからなかった。まあいいわ。来週にはビックイベントをしないといけないしね。 キョンは部室を出て行ていく。三者面談があるらしい。 三者面談というのは、先生と生徒とその保護者の3人で進路のこととかを話し合うというくだらない行事で、2年生は5月のゴールデンウィーク明けから実施されている。 しかし暇だわ。なんかすることないのかしら。 そういえば、朝比奈ミクルの冒険DVDの仕上げをしようと思っていたんだわ。キョンがいないし丁度いいわ。DVDのジャケットを決めるためみくるちゃんの写真を何枚かピックアップして画面に表示させる。どれがいいかしら。このメイド服も色っぽいけど、かえるの写真も意外にいけるわね。 「古泉君、あなたはどれがいいと思う?参考までに聞いてあげるわ。」 古泉君が画面を覗きこむ。 「そうですね」 その時ドアが開いた。 「何やってんだ。」 キョンだった。 キョンは不機嫌そうな顔をしている。それを見た古泉君は微笑しながらパソコンから離れていく。 「写真を見ていただけよ。あんたこそ面談じゃなかったの。」 「前の人が長引いていて、まだ順番が回ってこないようだったから部室に戻って来たんだ。」 「そう。」 「で、何やってたんだ。」 キョンがパソコンを見る。隠し通してもよかったが、変に勘ぐられるのもなんだから全部正直に言ってやった。 「そんなもんいつ作ったんだ。俺は知らんぞ。」 「あんたがいない間に作ったのよ」 キョンは古泉君を一瞬睨み、私に 「DVDの発売はまずいだろ。」 「なんで?」 「そんなもん、発売してみろ。あっという間に広がってしまう。朝比奈さんの日常生活に支障が出るだろ。とにかく駄目だ。」 「あんたがなんと言おうと発売するわ。あの映画はSOS団全員で作り上げた汗と涙の結晶。後世に残す芸術作品だわ。みくるちゃんだって承諾しているわ。」 みくるちゃんは捨てられた子犬のような目でキョンを見てぶるぶると首を横に振る。 「だめだ。朝比奈さんも嫌がっているじゃないか。朝比奈さんはグラビアアイドルでも、おまえのおもちゃでもないんだ。だいたい、なんで映画と関係のないセクシー映像が必要なんだ。何がSOS団全員で作り上げた汗と涙の結晶だ。DVD化に俺は参加していないし、そもそもやることするら聞いていない。」 みくるちゃんのことになるとムキになるキョンをみて私も腹立ってきた。 「いちいちうるさいわね。私が発売するって言ったら発売するの。みくるちゃんは私のおもちゃよ。みくるちゃんに決定権なんてないわ。とにかく売り出すのよ。」 キョンの顔がみるみる内に赤くなる。 「こんな“くそ”映画、売り出す価値もない。」 かっちんときた。“くそ”映画。 「ふざけんな。SOS団の総力をあげて作り上げた映画に対して“くそ”はないわ。でてけ!!!」 キョンは部屋を出て行った。 なんなの。あいつ。 椅子に座り、パソコン画面を眺めた。 あー、むかつく。映画作りはあんなに協力的だったのに。“くそ”映画はないでしょ。 キョンは映画作りは楽しくなかったのかしら。 「涼宮さん」 振り返ると心配そうな顔で古泉君が私をみていた。 「彼も本心から映画を罵倒した訳ではないと思いますよ。彼の映画作りに対する情熱は涼宮さんにも負けず劣らぬものでした。にもかかわらずその映画のDVD化の話が自分の知らないところで進んでいたらどう思うでしょうか。」 私はパソコンの画面の方向に目線を向け、返事はしなかった。 「涼宮さん。彼は強情で意地っ張りです。彼は楽しいことでも「楽しい」と声に出しません。素直じゃないんです。彼も反省していると思うのですが、素直に謝ることができない人間なんです。ですから」 古泉君は言いにくそうに言葉を選んで話していた。 「わかってるわよ。」 古泉君の言うとおり。本当にあいつは頑固なんだから。仕方ないわね。私が謝るしかないわね。 しばらくしてキョンが部室に戻ってきた。面談が終わったようだ。 「ハルヒ。」 「何よ。」 「すまなかった。」 「そう。うん。」 ぱたん。有希が本を閉じた。有希が本を閉じる音はSOS団活動終了の合図になっていた。世の中にはタイミングというものがある。いくらこれをしようと考えていてもタイミングを逃してしまうとどうしょうもない。私もキョンに内緒でDVDを作ろうとしたことを謝ろうと思っていたが、どうもそのタイミングを逃してしまった。と、都合のいい理屈をつけてごまかす自分が情けない。謝ろうとは思っているんだけど。結局いつもうやむやになってしまう。 下校はいつも通り。私とみくるちゃんが先頭。後に有希。最後尾にキョンと古泉君がいる。有希のマンションの前でみんなと別れた。 たしかに私も悪かったわ。団員を仲間はずれにするなんて団長として失格ね。明日はちゃんと謝ろう。はあ。大きなため息が自然とでた。 と、ここで私は数学の参考書を学校においてきたことに気づく。宿題は小テストの日までにやればよくまだ余裕があるけど、キョンに教える前に一通り問題を解こうと思っていたんだった。仕方ない。私は学校に引き返えした。 私が有希のマンション前を通ろう としたとき、私はさっき別れたばかりのキョンを見た。あいつも忘れものかしら。このタイミングを逃してはいけない。今度こそ。ちゃんと謝ろう。私は小走り でキョンに近づき、声をかけようとした。しかし、キョンの行き先が学校でないと分かりやめた。キョンは有希のマンションに入っていく。え。どういうこと。 なんでキョンがマンションに。 なんか有希の家に行く用事があったのかしら。いや、でも変だわ。それならどうして私たちがマンションの前を通った時、直接マンションに入らなかったの。まるで、SOS団の誰かに知られたらまずいことでもあるような行動。すっごく嫌な予感がした。でもそれは、実は去年のクリスマスからうすうす感じていたそんな恐怖だった。 オートロックのドアが開きキョンは中へと消えていく。 私は坂を登るのをやめ、家路についた。キョンはいつから、有希のことを思うようになったんだろう。いや、まだ決まった訳じゃないしね。そう自分に言い聞かせる。 なぜか胸が締め付けられる。なんで私はこんな気持ちになるのだろう。はじめて自分の気持ちを気づいた。いや正直に言うわ。本当はずっと気づいていたの。気づいていたけど気づかないふりをしていた。私はキョンが好きだった。 翌日の放課後、部室に行くと誰も来ていなかった。定位置に座り本を読む有希を除いて。 「他のみんなは来てないの。」 「……」 私は椅子に座り、パソコンの電源をつけた。 「キョン達はまだなのかしら。遅いわね、何やってるのかしら。」 パソコンのファンの音が部屋に鳴り響いた。 「ねえ、有希」 「……」 「有希ってどんな本読むの?」 「いろいろ」 「好きなジャンルとかあるでしょ。」 「特に」 「恋愛小説とかは読むの」 「たまに」 「そういえば、有希のタイプの人ってどんな人なのよ」 「……」 「やさしい人、頼りになる人?」 「……」 「古泉君みたいな人は?やさしいし、しっかりしてそうじゃない」 「彼はとても立派。」 「そう。じゃあキョンは?あいつは気が利かないし頼りないけど。」 「……」 有希は何も言わず本に目を落とした。 私が何を言うか思案しているとドアが開く。キョンだった。 「よう」 私はネットサーフィンに忙しいふりをする。 古泉君とみくるちゃんはなかなか来ない。 無音が続いた。 私は心に決めていた。キョンに気持ちを伝えよう。もしかしたら迷惑かもしれない。 でも、私はこの気持ちを自分の中だけにしまい込むことはできそうにない。キョンが有希を選ぶならそれでいい。 とにかく私の気持ちを伝えたかった。2人きりになったときに言おう。学校帰り、みんなが解散した後が狙い目かしら。 沈黙を破るように扉が開く。 「遅れてすみません。面談がありまして。」 古泉君が入ってきた。 みくるちゃんも今頃、面談をしているのかしら。ちなみに私もこれから面談だ。 「そうそう、明日、土曜日は不思議探索ツアーをするから。北口駅9時集合ね。」 キョンの表情が曇る。 「いきなり言われても困るぞ。」 「何言ってんの。団長命令は絶対よ。参加しなさい。」 キョンはまだ怒っているのかしら。 「そうですね。やりましょう。最近やっていませんでしたから楽しみです。」 そう言ったのは古泉君。それを聞いたキョンは古泉君を一瞬睨みつけたが、承諾した。 私は部屋を出る。今日は三者面談の時間だからだ。 面談が終わり、部室に戻る。扉を開けようとしたとき中から声が聞こえてきた。キョンの声だ。 「どういうつもりだ。なんでOKしたんだ。明日の朝9時集合だと。あほか。」 「涼宮さんが集まると言っているんです。仕方ないでしょう。」 「俺たちは忙しいんだ。やらなきゃいけないことだってたくさんある。そんな暇つぶしにつきあっている暇はない。たまには断ってやってもいいだろう。」 「まあ、いいじゃないですか。」 「どうしておまえはハルヒの言うことをそうほいほい肯定するんだ。朝比奈さんも何か言ってやってください。」 「えーと、その、まあ。涼宮さんが決めたことだから仕方ないと思います。」 「やれやれ」 私はその場に立ちすくんだ。帰ろうかな。ドアノブに手をかけた状態で静止し続ける訳にもいかず扉を開ける。 キョンと古泉君はオセロの真っ最中だった。とりあえず椅子に座り、パソコンに電源を入れ、起動を待ちながら頭の中で整理する。 「俺たちは忙しいんだ。」キョンの言葉がフラッシュバックする。なにが忙しいよ。有希の家に行くのが忙しいっていうの。 それに古泉君とみくるちゃんまで。 みんなはSOS団の活動を楽しんでいる。そう思っていた。いや、楽しんでいるかどうかなんて考えもしなかった。 世界中どこにでもある平凡な毎日。不思議も何もない日常。そんな日常を変えようと必死でがんばってきた。世界一面白いクラブを作ろうとそう誓った。 SOS団は世界一面白いクラブだろうか。楽しいと感じていたのは私だけだったのかもしれない。 「そうそう。」 私は思い出したように言った。 「急用を思い出したわ。明日の活動は中止だから」 キョンも古泉君もみくるちゃんも、一瞬表情が変わった。有希までも読書を中断してこっちを見ている。 そんな顔をされるとこっちまで不安になってくるじゃない。 「安心しなさい。また近いうちに活動をするから。」 「楽しみにしています。」 古泉君が笑顔で言った。気を遣ってくれたのかもしれない。 「すみません。ちょっとバイトがありまして。帰らせていただきます。」 古泉君は突然そう言うと部室を去った。 そうこうしているうちに下校時間になる。パタン。 私は考えた。SOS団の団員は私のことをどう思っているのかしら。SOS団のことをどう思っているのだろうか。 今まで「みんながSOS団の活動を楽しんでいるか」なんて考えたこともなかった。 私は誰よりも面白い高校生活を送ろうと思った。世界で一番楽しいクラブを作ろうと思った。そして、そうなるように行動したつもり。 でも、それは私の自己満足だったのかもしれない。この1年私は1人で盛り上がり1人で空回っていたのだろうか。 宇宙人も未来人も異世界人もでてこない平凡な日々。SOS団ってなんなんだろう。SOS団なんてやめようかな。 キョンやみんなと映画を作った日が懐かしい。徹夜で映画の編集作業をしてくれたキョン。 今はSOS団の活動より、有希と一緒にいる方が楽しいのかな。 脱力。という言葉がぴったり合う。私は何もしたくはなかった。テレビを見ても音楽を聴いても、上の空だった。そうして何もせず休日は過ぎ去った。 月曜日。よっぽど学校を休もうかと考えたが、学校には行くことにした。始業時間ぎりぎりに学校に行き、休み時間を告げるチャイムが鳴ればすぐに教室を出た。授業は頭には入らず、ずっと雲を眺めていた。 放課後、部室に行くことにする。団長が無断欠席するわけにはいかないし。 部室に入ると誰も来ていない。いつも部屋の隅で本を読んでいる有希さえ来ていない。有希の座っている椅子に手紙が置いてある。 涼宮ハルヒ様へ 明朝体で書かれた字は有希が書いた字で間違いない。私は手紙の封を切った。中には一枚の紙があり、そこにはこう書かれていた。 私の家に来られたし。 なんだろう。果たし状?なわけないか。私に何か話しでもあるのかしら。 私は、椅子に座り誰か来るのを待ったが、だれも来なかった。5分と経たないうちにだれもいない部室に1人でいることに耐え切れずへやから飛び出した。気が進まないけど仕方がない。私は有希の家に向かう。 有希の家に行きインターフォンを鳴らす。 ドアが開き、有希が出てきた。 「入って」 私は伏魔殿に入るかのごとくおそるおそる中に入る。家の中は暗かった。前が見えないぐらい真っ暗なのだ。まだ外は明るい。不自然というか、意図的に暗くしたとしか思えない。 「こっち」 明かりもつけず真っ暗な廊下をまっすぐ歩く有希を追って中へ進む。手から汗が噴き出した。真っ暗なリビングに入ったとき、 パパン 轟音がなり、部屋の明かりが突然ついた。 え。 「ハルヒ。今までありがとう。」 クラッカーを持ったキョンがいた。 「これからもよろしくお願いします。」 と古泉君。 「おめでとうございます」 みくるちゃん。 つくえの上にはケーキや料理がところ狭しと並んでいた。 中央に陣取っている巨大ケーキには、 祝SOS団結成1周年 と書かれている。部屋は飾り付けをしていて、お祝いムード一色。リオデジャネイロのカーニバルに負けないほど賑やかな部屋だった。 このサプライズパーティーについて古泉君が説明してくれた。 「いつも涼宮さんが楽しいイベントを企画して、僕たちを先導してくださっていました。おかげで僕たちはいつも楽しませてもらっています。涼宮さんには感謝しきれません。ですから、SOS団結成一周年の今日ぐらいは役割を交代して、僕たち団員が団長を驚かせようと考えたわけです。 料理は朝比奈さんと長門さんが担当しました。ケーキも含めてみんな手作りですよ。僕たち男2人は部屋の飾りを担当しました。実を言うと、ここ数日、SOS団の活動が終わった後、涼宮さんに内緒で長門さんの家に集まって準備をしていたんです。休日返上でした。正直、涼宮さんが土曜日に不思議探索をやると言ったときにはどうしようかと思いましたよ。」 さらに古泉君は私にしか聞こえないような小さな声で言う。 「ちなみにこのパーティーを発案したのは彼です。」 古泉君は普段の2割増の微笑を浮かべていた。 饒舌な古泉君に対して、キョンは私に話しかけてくることさえしなかったが、時折私の顔色をうかがいたいのか、ちらちら見てくる。 私はあふれる笑みを抑えることが できなかった。無理もないわね。ここ数日感じていた違和感。胸のつかえが一気にとれたんだから。ここ数日キョンの様子がおかしかった理由。キョンが有希の 家に行った訳。不思議探検の実施を嫌がったことも、今ならわかる。理由はたった1つだったのだ。 もちろんSOS団結成一周年のことを私も忘れていた訳ではない。以前から盛大に祝おうと考えていた。けど最近立て続けに起こった出来事のせいでイベントをやる気持ちも失せていたのだ。 私はみんなに言った。 「みんな、ありがとう。」 私は緩んだ顔を引き締める。 「実を言うと、私は一度だけSOS団を解散しようと思ったことがあるの。私は世界一面白い仲間と世界一面白い活動をしようそう思ってこの団を作ったの。でも本当にそうなんだろうかって。宇宙人も未来人もやってこない。別に不思議な出来事もおきない。SOS団の活動もどこにでもある日常なんじゃないかって。 けど私はそう考えた自分を恥ずかしく思うわ。みんなに申し訳ない。SOS団は間違いなく世界一の団体。だって世界一のメンバーが集まっているんだもの。 みんなと出会えて本当によかった。本当にありがとう。 みんな、これからも私についてきなさい。今まで以上に盛り上げるわよ。 そうよ、常に前年を上回らなければいけないもの。 みんな覚悟しなさい。明日から激務が待っているから。」 その後、ケーキに1本のローソクを立て、ハッピーバースディを歌い、みんなで一緒に息を吹きかけ火を消した。そして乾杯してからみくるちゃんと有希の手料理に舌鼓をうつ。 有希は小さい体でよくこれだけ食べられると関心するぐらいもりもりもり食べ、みくるちゃんはメイド姿じゃないけど、ぱたぱたと動き回っていた。つくえにのりきらないほどの料理をみんなで平らげ、食後は古泉君が持ってきたツイスターやジェンガで盛り上がった。 日が沈み暗くなり私たちは解散し た。私は1人夜道を歩いている。暖かくなったといってもまだ夜は肌寒い。私は1つの決心をしていた。キョンにちゃんと気持ちを伝えよう。キョンが有希の家 に向かう姿をみて自分の気持ちに気づかされた。あれは杞憂だったが、今後心配が具現化するとも限らない。もうあんな気持ちにはしたくない。私はキョンが好 きなのだ。たぶんあいつだって。 私は携帯をポケットから取り出した。キョンと会って話をするために。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/2567.html
古泉が病室を出て行き、部屋の中には俺とハルヒの二人っきりとなった。 ……何だ、この沈黙は? なぜだか全くわからないが微妙な空気が流れる。 おそらくまだ1、2分程度しか経っていないだろうが、10分くらい経った気がする。 やばいぜ、ちょっと緊張してきた。何か喋らないと。 『涼宮ハルヒの交流』 ―最終章― 沈黙を破るため、とりあえずの言葉を口にする。 「すまなかったな。迷惑かけて」 「別にいいわ。けどいきなりだったから心配したわよ。……もちろん団長としてよ」 「なんでもいいさ。ありがとよ」 再び二人とも言葉に詰まる。 「……あんた、ホントにだいじょうぶなの?」 「どういう意味だ?」 「だってこないだ倒れてからまだ半年も経ってないのよ。何が原因なのかは知らないけどちょっと異常よ。 ひょっとして、あたしが無茶させすぎちゃったりしてるからなの?」 確かに、普通はそんなにしょっちゅう意識不明にはならないよな。 けど今回の原因はハルヒだなんて言えねぇし。 どうでもいいが無茶させてる自覚があるならもっと優しく扱ってくれ。 「だいじょうぶさ。もうピンピンしてる。別に体に問題があるわけでもない」 「そう……、ならいいけど」 ハルヒに元気がないな。そんなに心配してくれてたってのか? それともここも実は異世界で、これは違うハルヒだったりするのか?いやいや、そんな馬鹿な。 ……ん?そうだな、そういえば言わなきゃいけないことがあったな。 「ハルヒ、昨日はすまなかったな」 ハルヒは不思議そうな顔で目を向ける。 「だから、別にいいって言ったでしょ」 「……ああ、いや、そのことじゃない。昨日の昼のことだ」 「ああ、……あれね」 途端に不機嫌な顔になる。やっぱかなり怒ってんのか。 「つい、つまらないことでムキになっちまったな。すまん。 けどな、お前からはつまらないことかもしれないけど、俺にとっては結構大事なことだったんだ」 「………」 あのハルヒと同じように黙ったままだ。 「別にSOS団として不思議を探すのは構わん。宇宙人、未来人、超能力者を探すのも構わん。 お前が手伝って欲しいってんならできる限りのことはやってやりたい。できる限りはな。 けど、な。……そいつらを見つけたら、俺は用済みになるのか?」 「そんなことは言ってないでしょ!」 「言ってはないかもしれんが、ひょっとしたらそうなんじゃないかって思ってしまったんだ。 そうしたら、きっと怖くなっちまったんだろうな」 「そんなことあるわけないでしょ。あんたあたしが信じられないの?」 「そうだったのかもしれない。いや、信じられなかったのは俺自身なのかもしれない。 そんなやつらがいる中で、いつまでもお前の側にいられるような資格がないと思ったのかもしれないな」 「そんなことないわ。だってキョンは、……キョンはあたしにとって……。あたしはキョンが……」 「でも、もうそんなことはどうでもよくなった」 ハルヒは驚いて悲しそうな顔になった。心なしか、涙が浮かんでいるようにも見える。 「まさか……もうやめるって言うの?なんでよ!?」 ああ、そういう風に捉えますか。というか言い方がまずかった気はしないでもないな。すまん。 「いや、すまん。そういう意味じゃない。俺はこれからもSOS団の一人としてやっていくつもりだ。 俺が言いたいのは、そのなんていうか……簡単に言うと自信が付いたってこと、か?」 「何言ってるのあんた。全然意味わかんないわよ」 だろうな。俺もよくわからん。どうやって話を進めたらいいやら。 「昨日言っただろ。普通じゃない人間なんて見つかりこないって。あれは本当のことだ。 けど、それはそういうやつらがいないって意味じゃない。こっちからは見つけられないって意味だ。 だっていきなり『お前は宇宙人か?』って聞かれて、はいそうです、って、本物だとしても答えるわけないだろ?」 「じゃあどうしろっていうのよ!」 「別に何もしなくていいと思うぞ。強いて言うなら、そういうやつらが現れるのを願い続けることだな。 そうすれば、お前の周りにいるそいつらは、時がくれば自分からそのことをお前に告げてくれるさ」 「あのねぇ、あたしには気長に待ってる暇はないのよ。時っていつよ?こないならこっちから探すしか――」 俺はハルヒの小さな肩に手をやり、ほんの少しだけこちらに引き寄せる。 「その時ってのは今だ」 「あんた何言ってんの?」 「あのな、ハルヒ。実は俺、異世界人なんだ」 「は?」 さすがに目が点になってるな。そりゃそうか。 「俺は異世界人なんだ」 「ちょっと、あんた。本気で言ってんの?んなわけないでしょ」 「本気だ。俺は異世界人なんだ。まぁそりゃあ普通の人間には簡単には信じられないかもしれないだろうがな。 それにしてもせっかく待ちに待った異世界人が現れたってのに、信じないなんてもったいない話だよな」 「わ、わかったわ。仕方ないから信じてあげるわよ」 なんて簡単に挑発にかかるんだ。こいつは。 「だからな……」 「だから何よ」 ハルヒの肩に置いていた手に、ギュッと力を込める。 やべぇ、めちゃくちゃ緊張してきた。 「俺は普通の人間じゃない異世界人だから、俺と付き合ってくれないか?」 ああ、ついに言っちまった。 「は!?あ、あんたちょっとまじで言ってるの?」 「ああ、俺は大まじだ。お前言ってただろ?普通の人間じゃないやつがいたら付き合うって。ありゃ嘘か?」 「嘘なんかつかないわよ。けど……、まぁあんたが異世界人だってんならしょうがないわね。 わかったわ。そこまで言うなら付き合ってあげるわよ」 意外とすんなりいったな。『あんたが異世界人だっていう証拠は?』とか言われたらどうしようかと思ってたが。 証拠なんてないしな。行き方も知らない。まぁハルヒは実は自分で知っているわけだが。 俺が本物かどうかなんてたいした問題じゃないってことなのか? まぁなんでもいいさ。 「一つ聞いてもいい?」 「なんだ?質問にもよるぞ」 「あんたの言う異世界ってどんな世界?」 どんな世界、か。どう言えばいいものか。ここと変わんねぇんだよなぁ。 「基本的にはこことほとんど同じだな。よくいうパラレルワールドってやつか?人もほとんど同じだ」 「ふーん、てことはあたしとかもいるわけ?」 「ああ、いるぜ。ちゃんとSOS団もある」 「じゃあ、何が違うの?全く一緒ってわけじゃないんでしょ」 そうだな?何が違うんだ?あまり違和感がなかったからな。 「なんだろうな。人の性格とかに微妙に違和感があるくらいか?」 「例えば?」 例えば、か。何かあったかな。 「あ、長門の料理がうまかった。昼の弁当もうまかったし」 ハルヒの目付きが変わる。 「へえー、有希に弁当とか作ってもらってたんだぁ」 いや、まて、それはだな。いろいろあって、とりあえず落ち着け。な。 「……まぁいいわ。そっちのあたしはどんな感じ?」 どんなって言われてもなぁ。確かにちょっと違ってはいたが。力のこともあるし。 「……お前をさらに強気にした感じだ」 としか言いようがない。 「なるほどね。まぁいいわ」 「というかお前案外簡単に信じるんだな」 「嘘なの?」 「いや、そういう意味じゃないが」 「ならいいじゃない。あんたが本当って言ってるならそれでいいのよ。何か問題あるの?」 「いや、ちょっと話がうまく行き過ぎてて。ハルヒ、本当に俺でいいのか?」 「あたしがいいって言ってんだからそれでいいのよ。何?取り消したいの?」 「そんなわけあるか!俺はお前のことが、……本当に好きなんだから」 空いているもう片方の手もハルヒの肩に置く。 「ならさっさと好きって言いなさいよね。全く。こっちだって不安なんだから」 「そうだな、すまん。……ハルヒ、好きだ」 「あたしもよ。……キョン」 両の手に少し力を入れて引き寄せると、それに従いハルヒも近づいてくる。 ……あと20cm。 俺が顔を近付けるとハルヒも顔を近付ける。 ……あと10cm。 残りわずかのところでハルヒが目を瞑る。 ……あと5cm。 顔を少し傾け、目を閉じているハルヒの唇に俺の唇をそっと重ね―― コンコン! バッ!! ドアがノックされる音に慌ててハルヒの体を引き離す。 「入りますよ」 そういって古泉が入ってくる。そういえばジュースを買いに行ってたんだっけ? というか手ぶらじゃねぇか。どういうことだ?その満面の笑みは何だ? 「いえいえ、なんでもありませんよ。」 古泉の後ろには隠れるようにしている二人の姿が見える。 お見舞いのフルーツセットと、それとは別にお見舞いの品の袋を持った朝比奈さんとなぜか大量の本を持った長門の姿が。 「長門、それに朝比奈さんも。来てくれたんですね」 「……来ていた」 「キョ、キョンくん、具合はどうですかぁ?」 ん?なんか様子が変だ。朝比奈さんに至っては顔が真っ赤だし。 ってハルヒも顔が真っ赤になってるな。しかも口を開けたまんま固まっている。どういうことだ? 「古泉、何かあったか?ジュースはどうした?」 「ああ、そういえば飲み物を買いに出たのでしたね。うっかりしてました」 「は?じゃあお前はジュースも買わずに今までどこ……って、お前まさか!?」 「いやあ、この部屋を出たところで偶然このお二方と会いましてね。中に入ろうかとも思いましたが……ねえ?」 と、長門の方に振る。 「……いいところだった」 嘘だろ?まさかこいつら全部聞いてたんじゃ。 「……古泉、どこからだ?」 「そうですね。『すまなかったな。迷惑かけて』からですね。最初の方でしょうか?」 最初の方っていうか一番最初だぜこのヤロー。 ……そこから全部聞かれてたってことなのか?そんな馬鹿な。ぐあっ、死にてえ。 思わず頭を抱える。ハルヒはまだ固まっている。 「キョンくん、気を落とさないでください。だいじょうぶですよぉ。カッコ良かったですぅ」 いえ、朝比奈さん。それ全くフォローになってませんから。 「まぁいいじゃないですか。一件落着ですよ」 くそっ、こいつに言われると腹立つな。 どうでもいいけどお前間違いなく開けるタイミング狙ってただろ。 「さて、なんのことでしょう?」 くそっ、いまいましい。 ハルヒいい加減正気に戻れ。 「わ、わかってるわよ。うっさい」 まぁいいさ。これでこの一件は無事に終わったってわけだ。やっぱりこういう世界が一番だな。 あんな悪夢のような時間は出来ればもう過ごしたくないものだ。 俺はここでこのSOS団のみんなと俺は楽しく過ごしていくさ。 だからそっちのSOS団もそっちで楽しくやってくれ。そっちの俺たちも仲良くな。頑張れよ、『俺』。 「とりあえず元気そうで良かったですぅ」 「安心した」 二人からちゃんとしたお見舞いの言葉をもらっていると、 「やっぱりキョンを雑用係にして酷使し過ぎたのがまずかったのかしらね」 だから自覚あるならやめろっての。 ハルヒは朝比奈さんが持ってきた俺へのお見舞いのメロンを食べ終えて言った。 ってお前、そのメロン全部食ったのかよ。それ俺のだろ? 「そうかもしれませんね」 古泉、お前思ってないだろ。とりあえずその手に持ったバナナの束を置け。 「だからキョンには新しい役職を与えて、雑用はみんなで分担することにするわね」 そう言ってハルヒはどこからともなく腕章とペンを取り出した。 って、どこから出したんだよ。ってかなんでそんな物持ってんだよ。 キュキュっとペンを走らせ、それを俺に突きつける。 「これでどう?嬉しいわよね」 渡された腕章には大きな字でこう書かれていた。 『団長付き人』 やれやれ、これからも大変そうだな。 今日からは俺も異世界人、これでSOS団の一員として新しくスタートってわけだ。 確かに向こうに行ってた時間は悪夢のような時間だったかもしれない。 けど、こうなってみると、この結果になったのは間違いなく異世界のおかげと言えるだろう。 異世界でのSOS団の出会い、ハルヒとの出会いがなければ俺はハルヒに告白なんてできなかったたろう。 ハルヒ。ひょっとしてこれもお前の望んだとおりの結果なのか? 異世界との交流を通して、俺に答えを出すことを望んだのか? まぁなんでもいいさ。 お前も望んでくれるなら、俺はいつまでもハルヒの隣にいたいと思う。 「ああ、ありがたく頂くよ。これからもよろしくな」 さて、これからはどんな新しいものとの交流が待っていることやら。 今から楽しみだぜ。 「ちょっとキョン!あたしのプリン食べたでしょ!?」 「いや、それ朝比奈さんが俺のお見舞いに持ってきたやつだから。しかも俺は食ってないぞ」 周りを見渡す。長門が食べていた。 長門はハルヒの方を向いて僅かだけ微笑みを感じさせる顔で言う。 「プリンくらいはあなたから貰ってもいいはず」 ◇◇◇◇◇ 最終章後編へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1006.html
プロローグ 天高く馬肥ゆる秋。俺はこれほど自分の無能さを嘆きたいと思ったことはないね。 なんせSOS団結成の一年生の五月より二年生も折り返しを過ぎた十月まで一年 五ヶ月もの間ハルヒに連れ回されているおかげで環境に対する適応力とかいうや つはそんじょそこらの人よりは身についているはずである。閉鎖空間、雪山、過去、 一種の電脳世界のようなところで巨大カマドウマとも戦った。そんな俺が自分はま だまだ世界を知らないとか言ったら谷口あたりは呆れ返るだろうね、うん。 そういうわけでちょっとやそっとの事態じゃ動揺しない精神を手に得れた俺である がまさかこんな欠点があったとはな。 今俺はハルヒとともに街をさまよっている。ハルヒは不機嫌モード全開で騒いでい る。 「ちょっと!キョン!ここどこなのよ!」 わかるならとっくにホテルに着いているんだがな。悪いが今の俺にはここがどこな のか聞くことも見ることもままならない。 なぜならここは日本じゃないからだ。―――― ―――― 一週間前 「キョン!遅い!こんな大事な会議に遅れるなんて。アンタ団員の自覚あるの?」 今日もわれらが団長涼宮ハルヒは絶好調のようだ。 「わりぃ、わりぃ。掃除当番だったんだよ。」 他の団員は全員そろっている。古泉はいつものニヤケ顔で俺のほうを眺めている し、長門はいつものように本を読む置き物と化している。朝比奈さんはもはや制服と なりつつあるメイド服を完璧にまといつつあっつあつの朝比奈印のお茶を淹れてくれ た。 「ふん。まぁいいわ。今日は一週間後に迫った修学旅行について話し合いましょう。 まず、目標。これはSOS団支部をつくることね。」 これを話し合いと言うのだろうか?一方的な演説みたいなもんじゃないか。これが 話し合いになるのは北の某国くらいじゃないのか?あいもかわらず反論する団員は いないので反論する役割は自動的に俺に回ってくる。 「待て。俺たちの修学旅行の行き先を知っていてそれを言っているのか?」 「当然よ。台湾でしょう?ついにSOS団も世界進出ね。」 「それはそれは。われらがSOS団がワールドワイドな組織になるのに微力でも貢献 できればいいのですが。」 古泉は部下の理想的な返事を返しているし長門はだんまりを続けている。 「えぇぇぇ~。今年の修学旅行は台湾なんですかぁ?去年は北海道だったのにぃ~。」 よく考えたら朝比奈さんは先輩だった。ということは朝比奈さんはこのSOS団台湾進 出計画に参加できないわけか。 「みくるちゃん、心配しなくてもいいわよ。お土産はちゃんと買ってきてあげるから。そう ね~。チャイナドレスなんていいかもしれないわね。」 おいおい。マジか。それには賛成せざるを得まい。メイド服の似合いっぷりも完璧なの だからチャイナドレスも似合うに決まっている。セクシーな朝比奈さんというのもいいか もしれない。新境地だな。 「キョン!何ニヤついてるのよ。どうせまたみくるちゃんで妄想してるんでしょ?このエロ キョン!」 う、図星だ。最近思うんだがハルヒには読心術があるんじゃないか?なぁ古泉。ってい っても古泉も古泉で俺の心を読んでいるような気がするんだがな。って古泉よ、こっちみ んな。ニヤつくな。 「自由行動はこの四人で行動しましょう。不思議探索IN台湾よ。世界は広いわよ。そこら じゅうに不思議が落ちてるかもしれないわね。」 ハルヒは輝くような笑顔で待ちどおしそうに話している。願わくばこのままなにごともなく すんでくれればいいんだがな。 ――――プロローグ Fin 一日目